新卒者の就職難の実態と政府の対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年2月

新卒の就職難が深刻さを増している。これには景気変動による一時的な要因もさることながら、企業の採用慣行の変化や大学進学率の上昇及び企業のニーズと大学教育とのミスマッチなどのような構造的な要因が大きく影響しており、かなり長引くことが予想されている。新卒の就職難の実態と政府の対策を追ってみよう。

新卒者の就職難とその影響

まず、統計庁によると、2001年11月現在、全体の失業者数は10月より1万5000人増え71万4000人に、失業率は0.1%下がって3.2%にとどまっているのに対して、20代の失業者数は30万5000人で3万9000人(14.7%)増え、失業率は10月の6.3%から7.1%に急上昇した。統計庁は「全般的に失業率が低め安定の状態にある中で、とりわけ20代の失業率が急上昇したのは大学卒業予定者の就職活動が本格化したためである。例年のように11月から来年2~3月にかけて新卒者の就職活動が集中することから、20代の失業率はしばらく上昇しつづける」とみている。

しかし、このような統計上の失業者数は実態を正確に反映していないとの声もあがっている。つまり、実際は失業状態にあるのに就職難のため求職活動を断念した者や、緊急避難的な失業対策事業や日雇い労働などに時時従事している者は統計上失業者として算入されないため、事実上失業状態にある者は統計上の数を大きく上回るのではないかという問題提起なのである。

とくに、新卒の就職難は例年のような冬季特有の一時的な現象にとどまらず、需要側の労働市場と供給側の大学教育現場における変化と深く関わっているゆえ、よけい深刻さを増している。まず新卒者に対する需要の面からみると、経済危機後企業の採用方針が大きく変わっているうえ、景気の先行きに不透明感が増し、新規採用の凍結・規模縮小に走る企業が急増していることが大きく影響している。つまり、大企業の間では、新卒の定期採用から即戦力になる経験者の通年採用へと採用戦略の舵を切るほか、正社員中心から非正社員の割合引き上げへと雇用管理の柔軟性向上に取り組む動きが急速に広がっており、新卒者の正社員としての定期採用はかなりの狭き門になっているのである。

それに追い討ちをかけているのが、いわば即戦力になりにくい大量の新卒者が労働市場に送り出されてしまうという供給面からの圧力である。つまり、大学の進学率は1992年の35%台から1995年に51.4%、2001年には70.5%(浪人生まで含めると、88.9%)へと上昇傾向にあるうえ、大学の専攻分野において企業側のニーズとはかけ離れた学科出身の卒業生が大量に労働市場に送り出されてしまうという構図が重い影を落としているのである(LG経済研究院、大卒者の就職問題、11月11日)。その結果、例えば教育人的資源部によると、2001年の大学卒業者47万2000人のうち、就職できたのは4月現在29万人で、失業状態にある者は13万1000人に上っている。

このような企業のニーズとかけ離れている大学教育を反証するかのような現象がにわかに注目を集めている。まず、あまり特色のない4年制大学とは違って、企業のニーズに合わせて現場実習などの実務教育に重点をおく専門大学(日本の専門学校と短期大学を組み合わせたような位置付け、全国159大学で970学科)や国立の技能大学(全国21カ所)などには企業の求人が殺到し、就職率100%を誇る学科が目白押しのようである。

教育人的資源部によると、専門大学の就職率は1999年の68.1%から、2000年に79.4%、2001年81%へと上昇傾向にあるのに対して、4年制大学の場合、51.3%、56%、56.7%にとどまっており、その差はさらに広がるとみられている。ただし、4年制大学においても学科別にばらつきは大きいようである。例えば、保育・産業デザイン・機械設計・電気電子工学などの就職率は80%以上に上っているのに対して、教育学・法学・行政学・政治外交学・物理学などは40%にも満たないという。そのためか、4年制大学卒業生の間では就職率の高い専門大学に再入学するケースが増え、1997年の2134人から2000年に2829人、2001年には3352人に達している。

もう一つ、就職難の影響で、早く内定をもらわなければという焦りのせいか、希望の就職先に拘らず、就職活動の範囲を広げる動きもみられる。就職情報サイトのスカウト(求職登録済み会員6293人)によると、回答者1122人のうち、「企業の規模を問わずとりあえず早く就職を決めたい」と答えたのは50.1%を占めた。そのほか、「就職活動の期間が長くなるにつれ、期待する年収の水準が下がる」と答えたのは70%、「学歴要件が自分の学歴より低いところにも応募したことがある」と答えたのも47.8%に達している。企業の規模や労働条件を問わず、就職さえできればと思う者が多いことがうかがえる。

危惧される非正規職の増加

そして、即戦力になる経験者と非正規職への依存度を高める企業の採用方針に合わせるかのように、キャリアパスの出発点として非正規職への就職に踏み切る大卒者も増えているようである。人材派遣会社のキステンプによると、10月に非正規職としての求職登録を済ました大卒者は1599人(登録済み社員の40%)で9月の849人より倍近く増えている。

その結果なのか、卒業者の未就業期間は短縮する傾向にあるようである。韓国労働研究院の労働パネル調査(15歳以上30歳未満で最終学歴を終えた者1615人)によると、経済危機以前の1994年から97年までの未就業期間は14.8カ月であったのに対して、1998年から2000年までのそれは5.6カ月へと大幅に短縮された。ただし、4年制大卒は8.4カ月なのに対して、専門大学卒は12.7カ月、高卒以下は18.5カ月かかるなど、学歴別に開きが大きい。

就職を急ぐ大卒者の多くが学歴のメリットを諦め、高卒者以下と競合するレベルまで就職活動の範囲を広げているため、その皺寄せが高卒者以下に及んでいることの表れかもしれない。

その一方で、経済危機後、終身雇用の慣行が呆気なく崩れたうえ、即戦力になる経験者へのニーズが急速に高まっていることもあって、20~30代社員の間では、会社への忠誠心より自分のキャリア開発を優先し、必要あれば転職を重ねることが新たな慣行として広がりを見せているようである。

このような労働市場の流動化を前提にすれば、正社員としての就職が難しい新卒者が非正規職への就職をキャリア開発の第一歩と捉え、できるだけ早く労働市場に新規参入することは現実的にやむをえない選択かもしれない。

問題は非正規職から正規職への橋渡し役を果たすべき労働市場のインフラ、例えば、雇用の柔軟性および労働条件における格差是正のための法制度、それに備えるための雇用保険3大事業の拡充、産学協働の教育訓練による職業能力・キャリア開発の仕組みなどがまだ整備されていないため、いわゆる「非正規職のワナ」にはまってしまい、正規職へのキャリアの転換がだんだん難しくなってしまわないだろうかという点である。

採用の際に企業の交渉力が圧倒的に強い買い手市場一辺倒の状況では、非正規職と正規職の間では働き方に大きな違いはみられないにもかかわらず、労働条件の面で両者間の格差は大きく開いたままになってしまう恐れがある。なぜならば、企業にとって手っ取り早い総額人件費削減策は非正規職の割合を引き上げることにより、その格差を最大限享受することにほかならないからである。そのような現状から考えると、非正規職から正規職への転換を個人のキャリア開発上の選択に任せるだけでは、個人が負うべきコストとリスクがあまりにも大きすぎるだろう。

新卒者の就職難を緩和するうえで最も有効な手立てはとりもなおさず正規職雇用の創出であろう。しかし、前述のような労働市場や教育現場などの現状からみると、それは最も時間がかかる対策かもしれない。より現実的な手立てとして急がれるのは非正規職から正規職への橋渡し役を果たすべき労働市場インフラの整備に政府が本腰を入れて取り組むことではないだろうか。

政府の若年層失業対策

政府は12月17日、大統領主宰の経済関係長官懇談会を開いて、「5246億ウォンの予算を投入して、15万5000人の雇用を創出し、14万5000人余を対象に教育訓練を実施すること」を主な内容とする「若年層失業対策」を確定した。

まず、予算2956億ウォンを投入する雇用創出案には、(1)2002年度の公務員の新規採用規模を当初の6000人から9000人に増やし、社会福祉士1700人を新たに採用、(2)インターン社員および研修生(役所や大企業での職場体験プログラム)として5万人、(3)若年層向け失業対策事業で4万7000人、(4)冬季に限って中小企業での現場実習で1万人、(5)小中学校での教務・コンピューター助手として5500人などに仕事を与える事業計画が盛り込まれている。また長期失業者の雇用促進策として、求職登録後6カ月以上経った若年層失業者を採用した事業主に対して採用奨励金(月50万ウォン)を6カ月間支給する雇用助成案なども打ち出されている。

次に、予算2290億ウォンを投入する教育訓練実施案には、(1)コンピュータープログラミングなど就職に有利な分野での教育訓練に8万6000人、(2)低所得若年層を対象にするソフトウェア技術分野での教育訓練に2万6000人、(3)大学に進学しない若年層向けの職種別訓練に1万人、(4)大学生起業家養成プログラムに1万5000人を当てることなどが含まれている。このような教育訓練に参加する若年層には月40-50万ウォンの奨励金が支給される。今回の政府の若年層失業対策は例年のような冬季特有の季節的要因による失業者の急増に対応するという側面が強く、冬季恒例の急場凌ぎにとどまっているといわざるを得ない。

しかし、その一方で、雇用情報システムの拡充や、大学教育システムの見直し、新規成長分野における長期的な人材養成計画なども同時並行で実施されることになっており、長期的観点からの正規職雇用創出や非正規職から正規職への橋渡し役の整備に向けた取り組みはすでに動き出したとみていいだろう。

まず第1に、労働部と教育人的資源部は次のように雇用情報提供の面から大学生の就職活動を支援するための基盤づくりにも乗りだしている。つまり、労働部は(1)雇用安定センターで卒業を前にした大学生の求職登録と求人需要調査を実施し、雇用情報ネットワークを通して雇用情報を提供すること、(2)2003年まで職業別に求められる職務遂行能力及び資格要件などの詳細な情報を提供する総合職業情報システムを構築すること、(3)教育人的資源部も韓国職業能力開発院に「大学生就業情報センター」を設置し、大学生の就職活動を支援することなどである。

第2に、教育人的資源部は企業のニーズに合わせた人材養成のために産学協働を促進する方向で大学教育システムを見直すこと(学制および休学要件の柔軟化、現場実習の単位認定など)を検討している。

第3に、政府は11月15日、6つの新規成長分野(情報通信技術、バイオテク、ナノテク、宇宙航空技術、環境技術、文化技術)において2002年から2005年にかけて2兆2400億ウォンを投入し、18万6486人(全体の需要40万8479人のうち、既存の大学・企業で養成される人材22万1993人を除く)の人材を新たに養成することを主な内容とする「国家戦略分野人材養成総合計画細部計画」を確定し、発表した。

今回の若年層失業対策で目を引くのはインターン制(職場体験プログラムに拡大)の採用規模を従来の5000人(後に1万人追加)から5万人に増やしたことである。同制度をめぐっては若年層の雇用機会拡大にはあまり貢献せず、企業の人件費補助に終わってしまうとの指摘もあって、2002年の雇用対策予算では大幅に削減されたが、今度は「厳しさを増す就職難に対する政策的配慮が足りない」との批判の声があがったため、景気対策のための補正予算で再び増額されるなど、その実効性が常に問われているのである(海外労働時報2001年12月号)。

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