全米自動車労組(UAW)がビッグスリーとの新労働協約を締結

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  • 国別労働トピック:2003年12月

全米自動車労組(UAW)は、ダイムラー・クライスラー社、フォード社、GM社の3大自動車会社およびデルファイ社、ビステオン社などその系列部品会社との4年間労働協約の改定交渉に漸く決着し、9月中旬、暫定合意を行った。今回の改定交渉は、7月中旬、厳しい経営環境と雇用情勢の下で始まり、収益減少気味の経営の負担となっている医療費負担、生産性の低い工場の合理化とそれに伴う人員削減など雇用をめぐるリストラ計画への対応が課題となっていた。

改定交渉をめぐっては、従来、ターゲット企業といわれる優先交渉企業を1社選定し、その結果をモデル協約として残りの2社との交渉にあたるという方法がとられていたが、今回の交渉では、予備交渉の段階からターゲット企業は特に設けられず、同時合意を目指した形の交渉となっていた。

当初の目標どおり、前回の1999年協約の期限切れとなる9月14日までの暫定合意が達成できたのはダイムラー・クライスラー社のみであったが、15日にはフォード社が、18日にはGM社がそれぞれ暫定合意に達した。今回の交渉では、ダイムラー・クライスラー社との交渉結果がモデルとなり、残りの2社とその部品会社が交渉する形となった。これら暫定合意された新協約は、各社組合員の投票を経て、10月初めまでにそれぞれ承認され、正式に新協約として成立した。各社協約の合意内容は下記のとおりである。

ダイムラー・クライスラー社との新協約

ダイムラー・クライスラー社との新協約では、6万人以上の組合員、さらに5万7000人以上の退職者、ほかにも1万7500人の遺族配偶者が適用の対象である。当初、UAWはこれらの組合員のすべてのニーズを満たすことを目標に交渉を開始した。新協約の内容は、次のとおり。

  1. 時間給労働者の賃金について、2年目に3000ドルを前払いの一時金として支払うほか、時間給を3年目に2%、4年目に3%引き上げる。
  2. 正規労働者には、2年目に前払いの業績一時金として3000ドルを支払うと同時に、0.8%の昇給を行う。また、3年目の2005年には2%の賃上げか20ドルを週ごとに支払い、4年目の2006年には3%の賃上げか30ドルを週ごとに支払う。
  3. 医療費負担については従来同様企業が全額負担する。処方箋薬の費用負担は、従来同様5ドルまで、高額医薬の場合には10ドルまで企業が負担する。
  4. 年金として、現在すでに退職している者へ、手当として、総額800ドルを新協約の有効な4年間毎年支払う。
  5. 新車購入補助金として、1000ドルを退職者に支払う。
  6. 協約の有効な4年間、退職者の年金額を月額4.2ドル引き上げる。

雇用に関しては、組合員の雇用の確保を条件に9工場のうち、5工場について2工場の売却と1工場の吸収合併が決定し、さらに2工場を閉鎖することが合意された。閉鎖となる2工場に勤務している従業員に対しては、UAWによって組織化された同社工場に配属される権利など、雇用・所得保障が与えられる。

フォード社、ベスティオン社との新協約

9月末、ダイムラー・クライスラー社に引き続き、UAWは、フォード社とその部品調達企業であるベスティオン社との4年間の新協約を結んだ。新協約は、7万2000人のフォード社の従業員と2万1000人のベスティオン社の従業員、7万7000人の組合員退職者、2万4000人の遺族配偶者へ適用になる。改定交渉は、先に暫定合意されていたダイムラー・クライスラー社との協約がモデルとなって進められた。フォード社とベスティオン社とUAWとの交渉の場合、2万2000人の従業員がフォード社からベスティオン社に借り出されているため、交渉の進め方は、やや複雑であった。この新協約では、ベスティオン社は、競争力を確保するため、UAW傘下の工場に効果的な資本の投資を行うこととフォード社以外のUAW傘下企業への部品の調達を行うことに同意した。一方、フォード社は、まず優先的にベスティオン社の製品を取り扱うことに合意している。雇用に関しては、ベスティオン社は、生産性が上がらず、増収を見込めない場合には、新規採用を手控えることにも合意した。新協約では、現在合理化が検討されている4つの工場を含め、フォード社が工場の売却や閉鎖を行うに当たっても、協約有効期間中は労働者の権利を守ることを約束している。

GM社、デルファイ社との新協約

10月6日、GM社とその部品会社デルファイ社との新協約が承認された。新協約は、11万7000人のGM社の労働者と3万人以上のデルファイ社の労働者、および23万4000人の退職者、6万3000人の遺族配偶者に適用される。

この新協約は、すでに成立しているUAWとダイムラー・クライスラー社、フォード社およびベスティオン社との新4年協約と同様の経済的モデルによる協約である。すなわち、

  1. 2年目に3000ドルの業績一時金を支給すること、
  2. 現在の既退職者への協約有効期間である4年間にわたり、年間800ドルを支給すること、
  3. GMの新車購入のための1000ドルの購入割引券を初年度と3年目に発行すること

などの今回の協約の重要な合意事項を盛り込んでいる。しかし、この協約では、医療保険の負担についてGM社およびデルファイ社の労働者の負担が増すことを一切認めていない。また、UAWの組合員で、デルファイ社に勤務するGM社の労働者をGMの工場に戻すことが約束された。これは、1999年協約以前に採用されたデルファイ社、GM社の全労働者にも適用される。デルファイ社との新協約は、GM社との新協約と全く同じ内容となっている。

デルファイ社は、新協約で、UAW傘下のGM社以外の工場での生産を行うことに合意した。さらにGM社も資本の投資をまず、デルファイ社優先で行うことを約束している。また、デルファイ社は、新規採用者には現職労働者より低い賃金体系を用いることに合意している。協約期間中、GM社では2250人、そしてデルファイ社では750人の見習い工の新規雇い入れが確認された。

新協約への労使の評価

新協約は、1999年の前回協約と比べ、賃金の引き上げ率(99年協約では毎年3%の引き上げがあった)、退職者への毎月年金額の引き上げ額幅の減少などの点で組合側が譲歩した形になったが、その他においては前回協約の水準を確保したものとなった。今回の交渉結果について、ゲッテルフィンガーUAW会長は、「今回の交渉は非常に厳しい状況のなかで行われたが、すべての組合員と退職者の要求を満たす結果を得ることができた。雇用に関して、閉鎖や売却を予定される事業場の組合員については保護されることを確認した」と評価のコメントを発表している。

欧州系やアジア系の自動車会社の激しい追い上げで厳しい経営環境に置かれる企業側も、 今回の協約締結にあたり、「従業員のために公正でバランスの取れた結果である」と評価している。ゲッテルフィンガーUAW会長は、今回の交渉に当たり、米国自動車産業が競争力を高めるため、さらに雇用の維持と米国内での生産拠点の維持のためには、従来の発想を転換して柔軟な発想が必要である、とコメントしている。

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