タイ政府、低額医療保険制度の改善に向けた増額支出へ
タイ政府は、9月18日に、現在重大な問題を抱えている低額医療保険制度改善に向けて50億バーツの追加支出を行うことを決定した。
タイの医療制度には、現在様々な種類がある。そのなかで低額医療保険は、2001年4月から主に低所得労働者のための医療保険制度として導入された。国内では、“30バーツ医療制度(サームシップ・バーツ・ラクサー)”という通称で親しまれている。加入者は、けがや病気、出産時に指定された国公立病院で、1回30バーツという低額で診療が受けられる。
この制度は、導入以来、深刻な財政難、国公立病院で患者が急激に増えたことによる医療従事者の過度の負担、それによる医療サービスの低下や医療事故の増加、医療従事者の退職が続くなど多くの問題が指摘されていた(『海外労働時報』2003年9月号参照)。
タイ医療評議会(Thai Medical Council)によると、2003年7月までに1000人近い医師が退職し、その増加傾向に歯止めがかかっていない。医療評議会では、退職した医師らにアンケートを送付して、退職原因や対策方法について検討している。
アンケートの結果、主な原因は、30バーツ医療制度の導入による過度な負担の増加であるが、そのほかにも次の点が浮かび上がってきた。(1)30バーツ医療制度と同時期に行われたタイの官僚的な公務員改革により、国公立病院の医師が、それまで手厚く社会保障や福利厚生を保障されていた国家公務員の地位から、地方職員の身分保障へ格下げされた点。(2)また地位の格下げに加えて民間病院との勤務時間の長時間化と賃金格差の拡大している点。(3)および医療技術向上のための研修制度が不足している点などである。
タクシン首相は、上記の問題に対処すべく、30バーツ医療制度の財政基盤強化のための今回の追加支出に加え、国公立病院の医師の身分を地方職員から国家公務員の地位に戻す考えを明らかにしている。首相はまた、医師の量や質の引き上げるために、30億バーツを支出して特別研修センターを設立する計画も発表した。
今回タイ政府は、まず医療関係者側の待遇改善と医療保険制度の財政基盤の強化対策を行った。他方、この30バーツ医療制度は、実際の運用面で利用加入者から多くの不満が出ている。利用者は指定された国公立病院しか利用できないうえ、診察のために早朝から深夜まで長時間待たされることも多い。また、エイズや腎臓病などの治療費がかかる病気には保険が適用できない点や、深刻な疾患や追加的な費用がかかる治療は病院側が多額の負担を恐れて診察を拒否するケースが見られたりしている(『海外労働時報』2002年6月号参照)。
タイ政府は、利用面の改善を図るためにまず都市周辺の指定病院と患者数との需要と供給格差解消のための地理的調査を、今後、段階的に進めていく予定である。
2003年11月 タイの記事一覧
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関連情報
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