全国継続労働取引制度
─労働情報制度(SIL)

カテゴリー:労働法・働くルール職業相談・職業情報・職業適性

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  • 国別労働トピック:2003年10月

1. はじめに

職業の仲介に関する公的制度の整備は、労働市場改革法に関するビアジ法(2003年2月14日法律30号〔就業および労働市場に関する政府への委任〕)の要点である。実際、就業サービスが非効率であるために、イタリアの労働市場の透明性および積極的労働政策の効率性が損なわれていることは周知の事実である。

過去10年間、法制度改革が実施されてきたわけであるが、公的職業紹介制度には未だ改善が見られない。ある専門家の指摘するように、その一因は、「構造、人材、設備、労働メンタリティーおよび労働の方法が、極めて抑制的な制度が採用されていた時代とほとんど変わらない」ためであろう。公的職業紹介が職業紹介全体に占める割合は、他の欧州主要諸国の場合が10%から30%なのに対し、イタリアでは4%から5%に満たない。このことからも分かるように、イタリアの公的職業紹介は十分に機能しているとはいい難い。労働者および求職者の就職機会向上を目的とした制度には、効率性および透明性が欠けていたわけである。

こうした点から注目されるのは、「労働情報制度(SIL)」の実施である。同制度は、委任立法469号11条がすでに規定していたものであるが、一部制度の不備のため始動に困難が伴ったことや、新制度の組織・機能モデルが不明確だったこともあり、未だに実施には至っていない。このように、サービスの利用者全体をつなぐ全国的な情報網が欠けているために、個々の業者の持つ情報を規格・整備し、共有することもできていない。この結果、必要なデータが利用できず、流動性を高める制度の実施や労働市場に関する措置の改善・整備が阻害されているのである。

2.ビアジ法による改革および委任立法案の立場

ビアジ法は、就業サービス制度にとって重要な節目である。同法は、過去のモデル(準公法的なモデル)を見直し再提案している。しかし、この方法では、透明性が高く効率的で開かれた労働市場を創設するという改革の目的が達成できないことは、過去の事実から明らかである。このような目的を達成するには、むしろ、様々なアクターの役割および機能を明確にすることが要求される。ビアジ法の委任立法案において、新サービスの組織・運営モデルの決定の際に、情報制度の実施が重視されたのはこのためである。

具体的に見ると、委任立法案は2つの指針に沿って構想された。第1は、労働市場の規則を監視する主体(国および州)の役割および機能を明らかにすることである。第2は、サービスの給付や組織モデルの運営の点で、新たな業者(認可あるいは許可された公的・私的業者)の役割および機能を明確化することである。

全国継続労働取引制度の採用により、委任立法案は、国と州との権限配分に関する憲法の解釈問題を回避している。すなわち、規制のレベル(国レベルか州レベルか)を厳密に確定することを避け、国内のどこであれ、労働に対する権利の遂行に対していかなる制限や拘束も置いていない。これは、憲法120条が明文で定めていることでもある。憲法新117条の文言が少なからず曖昧であることを考えると、委任立法案は、求人および求職の仲介制度が開かれたものとなるよう、実践的かつ機能的な態度をとったことは評価できよう。

全国継続労働取引制度自体も、労働者および企業が自由かつ直接に利用できるよう設計されている。まず、労働者や企業は、仲介を置くことなく、人材の応募や募集に関する情報を直接掲載することができる。このように、利用者に対しシステムを完全に開放することによって、国と州との権限配分の問題を回避することができる。情報制度の肥大化により、情報資源が過度に分散しさえしなければ、同制度が急発展する可能性もあるだろう。

3.開かれたモデルおよび州と国との権限配分に関する問題

憲法120条は、イタリアのどの領域においても、州は、労働権の行使を制限できないと明文で定めている。ここでは、労働市場が国レベルのものであることだけでなく、労働者が実際的にも潜在的にも、イタリア全土を州による制限なく移動できることが確認されているのである。

労働情報制度に提供される情報の普及は、利用者自身によって決まる。また利用者は、自分自身の連絡先を掲載するか、あるいは求職に関する責任者として官民の仲介者を指定するかを決めることもできる。これによって、労働へアクセスする権利を十分に保障すると同時に、情報の名義に関する議論を回避することができる。

この点は、認可および許可制度における主たる改正点の1つでもある。認可または許可を受けた官民の業者は、全国継続労働取引制度への相互接続義務や、事前に選択しておいた時間および領域にかかわる労働者や企業の指示に基づいて、取得したデータを同制度へ提供する義務を有するだけではない。実際、委任立法案では、憲法で保障された労働権の実効性を強化するために、労働者によるデータ普及の権利を保護する、という規定が順守されているかどうかが、仲介業の認可基準の1つとなっている。

企業および労働者が自由に接触しうるという原則を認めるなら、両者の接触を容易にするような情報はすべて利用できなければならないだろう。企業および仲介者による全国継続労働取引制度の活用は、常に変化する労働市場をとらえ、積極策を実現するための唯一の方法である。逆に、利用者にとっての可視性および開放性が欠如しているのならば、同制度は単なる登録制度に終わる可能性もあるだろう。

全国労働取引制度において、国レベルの主体の果たすべき役割は、基準設定に対する寄与だけでなく、地域制度の統合を保障することも含まれる。2001年10月18日憲法的法律3号3条1項r)は、全国労働取引制度に関する州の権限を主張するためにしばしば援用されるが、ここでは、国の専管事項として、国、州および地方行政に関するデータの統計および情報処理に関する情報の整備が挙げられている。すべての人に対して開かれた継続労働取引制度の計画、発展および運営は、単なる技術・情報処理の問題にとどまらない。なぜなら、同制度は、求人と求職とが出会う潜在的な市場だからである。

なお、ビアジ法の実施指令案の構想によれば、データの名義人は、情報サービスにアクセスした個々の労働者または個々の使用者とされている。これによって、情報の名義を官民の業者とするような無益な解釈や論証を回避することができるだろう。

全国継続労働取引制度を実際に始動するために極めて重要な問題は、利用者に対する完全かつ実質的な開放性であった。このため、官民の業者は、使用者から受けた連絡や(場合によっては)就業サービスにおける地位の変化などによって、行政上の情報を実際に改訂していかねばならない。

4.制度のモデル

労働者と企業が自由に利用でき、ネットワークのあらゆるポイントからアクセスできなければならないことを考えると、全国継続労働取引制度が実際に運営される場合には、州ごとのネットワークにより構成され、全国レベルおよび州レベルで調整されるという形をとることになろう。

全国レベルにおいては、運営基準や流通情報を設定し、州ごとのシステムを統合するだけでなく、求人・求職の仲介過程の実効性および透明性を最大限確保しうるような一連の情報が確定される。一方、州レベルでは、州が有する労働政策の策定および運営の権限を尊重しつつ、当該地域の官民の業者を統合し、就労サービスモデルを確定・実施する。さらに、州は、全国レベルの情報伝達基準の決定について協力することが求められる。

国の水準と州の水準との調整は、憲法4条および120条を尊重しつつ、全国継続労働取引制度が、全国および地方のいずれにおいてもうまく機能するように実施されねばならない。このため、労働社会政策省は、州および県に対し、その権限の行使に必要なシステムを(イタリア労働株式会社を通じて)提供しなければならない。

5.運営基準および流通情報

委任立法の施行から30日以内に公布される労働社会政策省令により、改革技術省の同意を得て、運営基準やシステム間での流通情報を定め、また、全国レベルでのシステムの連結および調整を確保するための技術局を設置する役割を、州および自治県に委任する。

全国継続労働取引制度に蓄積されたデータベース、使用者が管轄内の就業サービス制度に伝達すべき事項の記録、および、利用者に対して実施される就業サービス制度の活動の記録は、労働社会政策省、州および自治県が、就業サービス制度を監督する際の共有統計ベースとして使われる。

委任立法案は、運営基準およびシステム間での流通情報の決定問題に関して、2002年7月11日国・州・地方自治体協定を援用している。これは、全国継続労働取引制度の組織・運営モデルの決定に関して参考となるものである。

2002年7月の同協定に従い、労働社会政策省には、政府の実施する政策に対する情報支援の役割だけでなく、技術的な側面として、州の中心局と地域下部組織との相互作用に関する基準の確定・運営について統一性を持たせるために、制度の一般的構造を決定する役割がゆだねられる。州に対しては、労働市場に関する戦略決定の役割のほか、技術および運営に関して決定を下す役割並びにインフラを整備する役割が与えられる。最後に、県には、就業センターと県の情報制度を調整することが要求される。

官民が統合された非階層的な情報基盤、すなわち、社会保障制度のネットワークと連結した、州ごとのネットワークからなる「ネットワーク」を創設する必要がある。これは、すべての州および地方自治体にとって全く均質的な「単一の」制度ではない。むしろ、州および地方自治体は、管轄する地域の要請に応じて、自律的にサービスを決定することができる。こうした措置の実施のために、労働社会政策省は、州および県の合意を得て、イタリア労働株式会社の技術支援を受けることができる。

6.サービス

労働取引制度により提供されるサービスは、以下の3つである。

  1. 就業センターの活動支援。この任務は就業センターの職員が担い、利用者(業者、労働者、企業)の目に直接触れることはない。就業センターは地方レベル(州および県)で運営されているので、労働社会政策省は、この点に関しては何の権限も持たない。技術および戦略に関する事項を決定するのは、州および県である。労働社会政策省がなしうるのは、自律的に対策を講じるつもりのない州および県に対して、補完的に技術的な解決策を提供することである。また、労働社会政策省は、州の情報制度間における相互作用の基準を提案し、州の制度を全国レベルで調整するために制度の基盤を整備する責任を有する。
  2. 労働者、業者および企業に対する直接の支援。就業センターを通じて県が担う求人と求職とを適合させる役割を促進する。就業サービスの促進に関する州の役割は維持される。州と県は、制度にフロント・オフィスとして自律性を与える権限を有する。一方、労働社会政策省は、州および県からの要請があった場合に、州および県に対し、技術的な解決策を提供することができる。また、州との合意に基づいて、州の制度を統合するためのシステムや機構を創設することもできる。
  3. 労働社会政策省の決定活動に対する支援(決定支援の役割)。この役割は、労働社会政策省に固有のものである。労働市場の分析・研究活動を遂行し、適切な政策が何かを判断することが求められる。

このように整備することで、委任立法案が述べているような、非階層的、非選別的かつ開放的な情報基盤を描くことが可能になるのである。

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