労働集約的投資による雇用創出の可能性
貧困にあえぐ国々にとって、何よりも必要なことは、国民に働く機会を提供することである。このような国でも、そのインフラの整備に「労働集約的」な手法を導入することによって、最低限の収入を伴う雇用をある程度確保することが、実際に可能になる。
このLBAT(Labour Based Appropriate Technology )と呼ばれる手法は、1970年代からILOにおいて定式化され、アフリカやアジアの低開発国、開発途上国で導入され、道路、橋、かんがい設備等の建設、補修工事を通じて臨時的な雇用を創出する手段として目覚ましい実績を上げてきた。通常の機械集約的な手法と、この労働集約的な手法とを道路建設の場合で比較すると、投資総額のうち、労働の割り振られる額が、前者では10%程度であるのに対して、後者では50~60%にもなるのである。
LBATの手法は、一方で、それが開発された20数年前に比べて、今日よりいっそうの雇用創出の具体的手段としての有効性を増してきている。その大きな要因は、この間、機械・設備の価格が概ね4倍になっているのに対し、この形態の雇用における実質賃金が1日1~1.5米ドルというほぼ当初の水準を維持していることである。
また、平均雇用期間は、年間100日程度である。したがって、この形態の雇用創出は年に150米ドル程度の所得転化がなされる、ということを意味している。しかも、このわずかな所得転移が、多くの家計を、貧困ライン以上に引き上げる効果をもたらしているのである。
アジアの地域では、例えばカンボジアでは、1992年以降7年間において、このLABTの導入による地方の基盤整備工事を通じ、270万人/日の雇用創出をしている。なお、その43%は女性の雇用であった。事業の中心は延べ475kmに及ぶ道路の建設、維持でもあるが、ユネスコの世界遺産であるアンコールワットの史跡の改修工事も含まれている。
日本で、かつて、一定の成果を上げてその後廃止された失対事業が、今日、あらためて、これらの国々で貧困から抜け出す実質的な手段として機能しているのである。
本資料は、本年3月、ジュネーブで開催されたILO第286回理事会の技術協力委員会の第1議題として提出されたもので、同委員会および理事会本会議を通じ、現実的かつ有効な手段として、高い評価を受けたものである。
2003年10月 ILOの記事一覧
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- インフォーマル経済におけるディーセントワーク
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