(香港特別行政区)外国人家政婦課税問題で波紋

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

香港の外国人家政婦の最低賃金3670ドルに500ドル課税する問題が、特に約15万人の家政婦の大集団を送り込んでいるフィリピンと、それに次ぐインドネシアとの間で波紋を広げている。

景気と労働市場の低迷の下で、香港では2002会計年度上半期の財政赤字が過去最悪の708億ドルに達し、基本法に定める財政均衡原則を達成するために、公務員給与の削減・見直し、社会保障関連支出の見直し、増税措置等が検討されており、2003年1月の董建華長官の施政方針演説でも財政再建問題が柱の一つになるとされている。

家政婦課税問題はこの財政赤字との関連で2002年4月に初めて表面化したが、財界を代表する自由党のジェームズ・ティエン党首が11月初めに、外国人家政婦の最低賃金に500ドル課税して140億ドルの増収を図り、政府の財政再建に寄与すべきだと提案したことで、問題が一気にクローズアップされることになった。そして、厳しい財政状況下でのティエン党首の提言だけに、民建連(DAB)等の主要政党や労組等、香港の各界では賛同する声が多いが、外国人家政婦からは即座に反対の声が高まり、これが本国政府を動かすことになった。特に、家政婦の大集団を送り込むフィリピンとインドネシアとの間で(注1)、両国政府の特使の派遣という事態に至っている。

フィリピンの家政婦が特に強く反対する背景には、以下のような事情がある。

  1. 有力コンサルティング会社KPMGによると、家政婦の最低賃金3670ドルに500ドル課税することは、所得税13.6%に相当するが、香港の累進課税制度によると、13.6%の所得税を課されるのは年収84万8823ドル(月収7万ドル以上)の高額所得者である。また現行制度では、所得税が課されるのは月収9000ドル以上である。
  2. 英国聖公会支援のフィリピン移住労働者伝道団が行った342人の家政婦に対する調査によると、最低賃金3670ドルの使途は、平均して、香港で生活する出費(借金返済、電話代、食費、化粧品等)が2457ドル(66%)、フィリピンへの仕送りが1287ドル(34%)である。ここから本国への仕送りが一般に考えられているよりも少なく、課税は本国の家族に対する痛手になるとされる。

このような事情から、フィリピンからはストウ・トマス労働雇用相がアロヨ大統領の書簡を携えて特使として12月18日に香港を訪れた。ストウ・トマス特使は、途中ジャカルタに立ち寄ってメガワティ・インドネシア大統領と会談し、エディソン・シトゥモラン・インドネシア人材移住相顧問を同道して香港を訪れたが、董建華長官は会談を断り、同特使は代わりにステファン・イプ経済開発労働長官と会談し、アロヨ大統領の書簡を手渡した。シトゥモラン顧問はイプ長官との会談も実現せず、ヌア・ウィー・インドネシア人材移住相の書簡を同国領事館を通じて董長官に渡すことになったが、同顧問は同人材移住相自身が2003年1月に香港を訪れることを明らかにした。

アロヨ大統領の書簡は次のような内容を含んでいる。「我々は課税に対しては以下の理由で反対します。すなわち、課税は差別的であり、香港法の機会均等条項に反し、ILO条約に反するものです。」

19日の会談で、イプ長官は外国人家政婦課税問題に関しては、確固とした、理に適った決定がなされることをストウ特使に伝えたが、会談後同特使は、香港政府が500ドルの課税を強行するなら、フィリピンは家政婦の香港就労を禁止するかもしれないと語った。また同特使は、ILO条約のもとでは、最低賃金は労働者に最低限支払われねばならないもので、それを下回ることは予定されておらず、500ドルの課税は実質的に最低賃金の切り下げで、フィリピン政府はILOに提訴することも考える述べている。

これに対してイプ長官は20日、香港では雇用主は地元の家政婦を雇用することも、フィリピン以外の国の家政婦を雇用することもでき、選択肢は豊富にあるから必ずしもフィリピン人家政婦を必要としないと反論している。また同長官は、家政婦は雇用される場所を選ぶ自由があり、そもそも香港での労働条件が悪ければ香港に来ないはずであるとも述べている。

外国人家政婦は1997年以後のアジア経済危機後は、香港に移入した最大の外国人集団を形成しており、現在約24万人に達しており、香港の労働力の無視できない部分を構成している。他方、香港の財政再建は厳しい局面を迎えており、この両方の側面から、今後この外国人家政婦の課税問題や最低賃金問題がどのように進展するか注目される。

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