全国総工会、組織率が大幅回復

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

全国総工会は過去5年間、地方組織を動員して組織率の回復へ努力してきた。努力は順調な成果を上げ、2002年6月現在、全国基礎工会数(組合数)が、165万8400、会員数(組合員数)が1億3154万7400人にまで増加した。

1. 過去の情況と事業計画の再編

市場経済化の中で、私営企業、外資系企業が増加し、国有企業は、合併やリストラを迫られた。こうした経済構造が変化する中で、工会数は、1996年頃から低下し始め、1999年には、全国基礎工会数51万、組合員数が、8600万人にまで減少した。

危機感を強めた全国総工会は、工会の事業を再編に着手した。その後の主な事業方針を概説すると以下のようになる。

時期 事業内容
1999年 全国総工会第十三期第三回主席会議の中で、経済の変化に合わせて、工会組織を改革してゆくことを決議した。
2000年 全国総工会は、新企業の組織化事業協調指導小班を設立し、郷鎮・街道、農村の行政機関の組織化に乗り出す。
2000年 全国総工会は、2002年末までに、新規工会を100万、新規会員数を3600万人まで拡大する計画を発表する。
2001年 第9期全国人民代表大会で、「中華人民共和国工会法の修正・改定に関する全国人民代表大会常務委員会の決定」(以下2001年工会法と略記)が採択され、工会の団体交渉権と労働協約締結権が明確に認められる。
2002年 全国総工会は、外資系企業の労働組合運動を強化する方針を打ち出す。

このような事業改革や法律の改正により、2002年6月、中国共産党第15回大会以後の新規の基礎工会数は103万2000、新規会員数が4000万人に達した。

2. 事業の展開内容

全国総工会との基礎工会は、中国共産党の指導の下、様々の事業を展開し、組織力向上に努力していった。

(1)中国共産党の強い支援

急回復の背景には、中央・地方の中国共産党の強い支援があった。また、工会も2001年改正の工会法において、「社会主義の道を堅持し、人民民主制を堅持し、中国共産党の指導を堅持し、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論を堅持し」(第4条)という内容を追加し、中国共産党との「血肉関係」を改めて明確にした。

(2) 経済面での支援事業の充実

各基礎工会が、2001年工会法を根拠に、団体労働契約締結に積極的に介入した。

その結果、労使間で平等に雇用条件を協議し、労働契約を締結した企業が、63.5万企業(工会が組織化された企業の48.7%)に達した。また、2000年11月、労働社会保障部は、「賃金集団協議試行方法」を公布したが、この法律も労働組合運動の展開に寄与し、全国の3万以上の企業で、賃金集団協議制度が実施された。

また、全国総工会は、市場経済化の中で、倒産や労働者の大量解雇が相次いでいるのを重要視し、中国共産党の指導の下、生活の苦しい労働者や基礎工会に対し、「送温暖工程(思いやりプロジェクト)」と呼ばれる事業を計画し、会員の生活状況の把握に努めると共に、政府と共同で、生活貧窮労働者支援センターの設立を推し進めた。この数年間で、基礎工会が党と協力して、生活困窮労働者に対する義援金を104億元を集め、48万の経営悪化企業の3975万人の労働者に給付した。さらに、全国の600以上の基礎工会は、元旦や春節期間に、「労働者生活相談サービスホットライン」を設置し、生活困窮労働者の救済に努力した。

(3) 法分野での支援の着手

基礎工会は、工会法と労働法を法的根拠とし、労使関係の調整や団体労働契約の締結に積極的に介入した。基礎工会は、この「両手抓」を論理的根拠にし、経営者側に対し、業務内容の公開を要求し、労働者大会による企業経営者の評価、経営者の接待費の使用状況の評価を積極的に実施した。また、組合員のための無料の弁護士活動を実施し、積極的に労働者の権益を守る法律活動を展開した。

現在、労働者代表大会制度を設立した単位は、32万7000(内、非公有制企業が8万4000)、労働者に対する業務内容公開制度を実施した企業が25万1000(内、非公有制企業が5.7万)、企業幹部に対する労働者民主評議制度を実施している公有制単位が、18万7000、労働者監事制度を実施している企業が、3万9573企業に達した。

このような基礎工会の経営参加は、労働者の権益の保護・拡大に積極的な効果を発揮した。

(4) 再就職・職業教育事業の強化

基礎工会は、経営者側や労働社会保障局と協力し、下崗労働者の技術研修、再就職先の紹介事業を積極的に展開した。

現在、基礎工会関係の各種教育機関は、全国で2400カ所あり、在校生が54万3000人いる。この内労働者を対象とした大学が、89校、在校生が8万人いる。高校が、172校、在校生が、8万4000人いる。労働者夜間学校が925校あり、17万人が学んでいる。

基礎工会は、こうした教育機関や企業内部の技術研修制度を用いて、労働者に対する技術研修を実施した。基礎工会の発表では、延べ6000回実施し、受講した下崗労働者は延べ300万人に達し、設立した職業紹介機関は400機関、下崗労働者の再就職を延べ300万人成功させたとなっている。しかし、こうした事業は、実際は、基礎工会が企業や政府と共同で実施したものも多く含まれ、基礎工会独自の成果を明確に表した資料は、まだ発表されていない。

(5) 政策立案過程と労使関係調整機関への参加

この5年間、中央・地方の基礎工会は、党や政府の政策立案過程へ積極的に参与した。これは、制度ができた後に、それに沿って、労働者を保護するよりも、制度そのものを労働者の保護に適したものにする方が有利であるという活動方針による。このため、労働者を代表して、政府、経営者との3者協議に積極的に参加した。全国総工会は、地方の基礎工会に対し、各市・県の党・政府の政策立案過程に積極的に参与するよう指導し、その結果、労働者の権益保護を目的とした法律を、合計1264件制定した。また、各級の労働争議仲裁委員の中の、1万5585委員は、工会幹部が占める。

2002年8月以降、全国の30以上の省(自治区、直轄市)で、労使関係三方協議会制度が発足したが、労働者側の代表は、基礎工会が担っている。

このように、立法と労使関係調整機関に積極的に参加することにより工会の地位を向上させた。

(6) 労働者の技能コンテストの企画

建国当初から、基礎工会は、労働者の技能向上を目指して、各種の技能コンテストを実施し、労働の質を高めてきた。技術革新の進む中で、現代の就労条件に適合できるよう、パソコン使用などの新技能の技能コンテストを開始し、全国で延べ8400万人が参加した。こうした新技術が労働者の付加価値と労働意欲を高めるのに寄与した。

(7) 海外の労働組合運動の調査・研究の強化

全国総工会は、海外の労働組合との情報交換や交流事業を積極的に進め、海外の各種代表団、616訪問代表団、計7286人を受け入れ、他方、海外へは、413訪問代表団、2787人を送り込んだ。特に、日本に派遣した研修生は、延べ1722人に達する。

3 今後の課題

改革開放経済が浸透し、経済がグローバル化する中で、海外からの情報は溢れ、労働者の労働組合運動に対する見方や要求は多様化している。また、共産党が、経営者層を積極的に取り込んでいく中で、以前のように一方的に労働者や基礎工会の権益保護のみを支持する政策は、今後、期待できなくなる可能性がある。そうした中で、どのように共産党との「血肉関係」を維持しながら、しかも、先進国の労働組合運動を一定の割合で導入し、労働者の工会への参加を維持してゆくかが政策課題となっている。

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