製靴産業の競争力低下、外資の撤退に労使困惑

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年2月

製靴産業における外資系企業の発注削減や撤退が続く中、労働者は雇用不安によるストライキを行い、経営者・政府からは、外資流入の減少を憂う声が挙がっている。電気産業でも日系企業の生産撤退が明らかとなり、政府と経営者の焦りは更に強まっている。

労働者のストライキ

タンゲラン州にある米系ナイキ社の下請企業である韓国系企業PTドーソン・インドネシアの従業員約2500名が、11月19日、退職金の支払いを求めてデモを行った。同社は、ナイキ本社の発注削減に伴う生産縮小のため、2002年9月から工場が閉鎖されていたが、閉鎖に伴っての従業員への退職金が未払いになっているという。

従業員らは、タンゲラン州裁判所に集結し、市内の大通りにおいて退職金支払いを求めるデモ行進を行った。しかし、150人の警官が介入し、脅しの銃弾を発射したため、行進は中止となった。

同社の労組代表は、「2002年10月1日付の2002年労働大臣令第197号/X/PHKによって、経営者側は、従業員全員に速やかに退職金を支払うよう命ぜられたにもかかわらず、従業員は退職金だけでなく、9月分の給与や補償金も支給されていない」と説明している。

一方、タンゲラン州の地方裁判所職員の話によると、上記の労働大臣令はDPドーソン側の上告によって施行が延期されている状態だということだ。

インドネシア経営者連盟(Apindo)タンゲラン支部のヘリー代表は、ナイキ社がインドネシアの下請企業への発注を、2002年は40%減少させていると発表した。

経営者側、産業支援を政府に請願

インドネシア製靴産業連盟(Aprisindo)のジマント事務局長は、政府に対して同産業への早急な支援を求めた。同協会は、今までも繰り返し産業の危機感を表してきたが(本誌2001年1月号及び2002年11月号参照)、ナイキやリーボック社の生産縮小や、別分野とはいえ、ソニーが生産中止を発表したことなどから、危機感募らせたものと見られる。

同事務局長は、インドネシアでの生産コストの上昇の要因を、1.電気と燃料費の急激な上昇2.労働コストの急激な上昇3.監査役の公務員に対する不当な支払い(裏金)4.高い利子率、と分析している。そのため、Aprisindoでは上記の諸要因に対して政府の早急な対処を求めたということだ。

一方、ナイキ・インドネシアのドゥモンド・ジェネラルマネージャーは、同国での生産は前年とほぼ変わらず、一部の報道は間違っているとコメントしている。同氏は、「ナイキはインドネシアをグローバル戦略の中の重要な国と位置づけている。現在インドネシアには、製靴産業だけでなくアパレルやスポーツ用品なども含めると、全体で12万人の雇用を抱えている。そのため、ナイキの下請企業に対しての努力と、従業員の雇用安定のために努力している」と述べた。しかし、2002年の下半期は、バリ島でのテロ事件なども影響し業績は思わしくなく、インドネシアへの下請発注は前年比50%の減少になる可能性もあると述べている。

現在タンゲラン州では、7つの大規模工場が、ナイキとの生産契約を結んでおり、合計約3万人が雇用されているといわれている。製靴産業全体の雇用者数は、約6万人程度といわれている。

イギリス系のリーボック社も、同社の生産量ではインドネシアが2番目となっており、3つの工場と下請生産契約を結び、2万人の従業員が働いている。しかし、2002年の初頭に、西ジャワにあるPTプリマリンド・アジア社との生産契約を打ち切り、5400人の雇用が失われている。

靴製品の輸出不振

インドネシアの製靴産業は、1996年に年間22億米ドルの売上を計上したのがピークとなり、1997年の経済危機以降下落傾向をたどっている。2002年上半期は、前年同期比で輸出高10%減、ブランドの靴製品の場合、13%減となっている。

ジマントAprisindo事務局長によると、インドネシアで生産された製品の平均コストは1足当たり4.6米ドルなのに対し、中国産やベトナム産のものは4米ドルで、約10%も高くなっている。ナイキ社の靴の場合も同様であるという。

そのため、上記のような生産減少が顕著で、この3年間で製靴メーカーは少なくとも100社は倒産に追い込まれているという。

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