外国資本の直接投資の減少と労働問題:長期化する高失業率

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

2002年の上半期において、インドネシアに対する外国からの直接投資は前年同期比で42%という大幅な減少となった。この原因を労使紛争の多発とする専門家の意見も多いが、労組側は問題は別にあると主張している。

また2002年8月に中央統計局(BPS)が発表した失業者数の速報によると、失業者数は840万人で、前年同月比で40万人も増加していることが明らかとなった。高失業率はインドネシアの抱える労働問題や産業問題が大きく関係している。

外資の減少は高い失業率の一要因

投資調整局(BKPM)は、2002年上半期の外国直接投資(FDI)が前年同期比で42%、25億米ドル減少し、国内投資も70%減少したと発表している。

専門家は投資減少の要因として、治安の悪化、不十分な投資環境、不十分な地方分権システム、世界的な不況、政府・官僚の汚職などを挙げつつも、最も大きな要因は度重なる労使紛争であると述べている。しかし、2001年以降、高いインフレ率やルピア高、低い利子率などのマクロ経済要因も関係しているので、一概に労働問題だけを外資減少の原因とするのは理不尽であるとの指摘もある。

国家開発計画局(Bappenas)の2002年経済予測では、世界的な不況による投資の減退により3%程度の経済成長率を見込んでいる。しかし、インドネシアの大量失業者を吸収するためには、経済成長率が年6~7%必要であるとされ、経済学者であるジスマン氏は、「外国資本投資をさらにひきつけるような政策が打ち出されない場合には、更なる失業者の増加に繋がるだろう」と予測している。

労働・移住省中央労働紛争解決委員会(P4)によると、2002年上半期の解雇者は6万2666人に達し、これはアジア経済危機後の1998年の解雇者数13万1000人に継ぐ数字だという。これらの解雇者の多くが、インドネシアでの操業を中止または移転した輸出指向型の企業の従業員だといわれている。

長期化する高失業率

2001年の失業率は、BPSの公式統計によると8%となっているが、非自発的・自発的失業、いわゆる不完全就業を含めると労働人口の約26%が失業状態にあるとの結果になっている(下記表参照)。

しかし前労相のボメル氏は、「この数字は現実の労働市場を表していない」と指摘する。同氏によると、インドネシアのような発展途上国では、失業者に対する社会保障制度が整っておらず、偽装失業(注1)のケースも考慮に入れる必要があるという。同氏の推計によると、失業者の数は4000万~4500万人から存在すると見られている。この数字は報道機関などがたびたび引用しており、より現実を反映した数字と認識されているようだ(注2)

マレーシアから出稼ぎ労働者強制帰国が失業者増加に追い討ち

ジスマン氏も同様に、インドネシアで最も緊急の問題は高い偽装失業率の解決であるとしている。さらに、2002年の8月までにマレーシアでの就労規制が強化され、出稼ぎ就労が一部禁止されたために40万人の不法就労者が強制帰国させられたことが、失業問題をさらに悪化させるだろうと予想している。高失業率は、犯罪率の増加、乳児死亡率の増加、社会的沈滞を引き起こしていると同氏は指摘している。

柔軟な賃金政策を求める声も

インドネシア大学の経済学者チャティブ氏は、「現行の最低賃金制度が柔軟性を欠いているために使用者が多くの労働者を雇いたがらない傾向にある」と指摘。2002年1月からの最低賃金の大幅な値上げも、使用者にとっては大きな打撃となっているという(例えばジャカルタでは最低賃金が前年比38%アップの59万ルピア(60米ドル相当)に引き上げられ、使用者団体との混乱があった。詳細は本誌2002年3月号参照

同氏は、このように高くなった最低賃金を職種や雇用形態などに合わせて柔軟に変化させることが可能な制度を設けることによって、失業者を吸収できるのではないかと予想している。

また、ガジャマダ大学のスリ女史も政府の中小企業支援政策が雇用吸収に役立つ可能性を示唆している。

ナイキ社とリーボック社の撤退により、製靴業界、政府に最低賃金の据え置きを要求

インドネシアには300社以上の製靴企業があるとされているが、その中でも大手の米系ナイキ社がインドネシアでの製造委託を行っていたドーソン・インドネシア(バンテン州タンゲラン)との契約打ち切りを発表した。理由は経済情勢の悪化で、ドーソン社との製造委託契約は11月で終了する。この結果、同社3000人の従業員の解雇される。

同様の理由で、英系リーボック社も、バンドン州にある工場の撤退を決め、5400人の従業員が解雇される予定となっている。

インドネシア製靴産業(アプリシンド)のジマント会長によると、ここ数年の経済不況により、インドネシアにある300社の製靴のメーカーは今や100社ほどになってしまったという。2002年の上半期の靴輸出量も、前年同期比で40%の減少となっており、2001年の上半期の前年同期比30%減から更に悪化している。

製靴産業を含む労働集約的産業、テキスタイル産業や縫製業は、産業保護のために設けられていた輸入数量制限が2004年までに廃止されることになっている。

さらに、現在審議中の新労働法では、週35時間以上の就業を禁止するという規定が設けられており、労働集約的な産業の経営者が、インドネシアでの操業を敬遠する材料となる可能性もある。

表:中央統計局による失業率(単位:100万人)
  2000年 2001年
労働力人口 95.6 98.8
失業者数 5.8 8.0
非自発的半失業者数*1 10.6 11.2
自発的半失業者数*2 19.4 16.5
  • *1 非自発的半失業者(Forced half unemployment)とは、中央統計局(BPS)の定義によると、週の労働時間が35時間以下で、求人活動を行っている労働者とされる。
  • *2 自発的半失業者(Voluntary half unemployment)とは、BPS定義によると、週あたりの労働時間が35時間以下の求職意思のない労働者とされる。

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