「社会対話」路線の危機

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

労組・雇用者団体・政府の間でのいわゆる「社会対話」路線は、90年代半ばよりほぼ一貫して継続してきた。しかしスペインの二大労組である労働者総同盟(UGT)と労働者委員会(CC.OO.)は、夏前に政府が労組の強い反対にもかかわらず失業保障制度改革を断行したことで「社会対話」が決裂したと見ており、決裂以前にすでに協議が始まっていたテーマ以外の新たなテーマについては、今後対話を開始する意向はないとしている。

失業保障制度改革について、政府はこれを改めて法案として国会審議にかけ、野党の意見も広く求めて行きたいとの姿勢を示しているが、労組は改革の全面的撤回を求めて、10月5日には首都マドリッドで抗議の大デモを行った。改革の一環として導入された農村雇用プラン(PER)の漸進的廃止で大打撃を受ける南部アンダルシア州からは、300人のUGT及びCC.OO.労組員が1週間以上かけてマドリッドまで徒歩で「行進」し、デモに加わった。また最大野党の社会労働党や、スペイン共産党を中心とする統一左翼などの左派政党の代表らも多数参加し、デモは総勢20万人程度に達したものと見られる。

実はデモの2日後の10月7日、サプラナ労働大臣とメンデスUGT書記長、フィダルゴCC.OO.書記長の会談が予定されていた。この会談でサプラナ大臣は、失業保障制度改革案を国会審議に持ち込むのに先立ち、労組側の要求を大幅に取り入れる姿勢を明らかにした。実際、解雇をめぐる訴訟中の賃金支払いや、観光シーズンなどの一定期間だけ働く断続的無期雇用労働者への失業手当支給、失業登録者がオファーを受けたら拒否できない「相応しい雇用」の基準など、労組側の主張の重要部分のほとんどが認められた形で、労組としてもやや予想外の展開となった。しかし政府は前述したPERの改革だけはどうしても譲れないとしており、PERの対象となるアンダルシア州とエストレマドゥラ州の農村労働者は失望を隠せないでいる。一方、解雇をめぐる訴訟中の賃金支払いに関して労組側の要求を取り入れることは、とりもなおさず雇用者側の強い反発を招くことを意味する。そのため、最終的に労組・雇用者・政府がどのような失業保障制度改革で合意するか、また野党が国会でどのような修正案を出して行くか、今後の動きを見てゆかなければならないといえる。

このような緊張状態の中で、2001年に労使間で結ばれた集団協約をめぐる協定の更新交渉が近く始まる。2001年の労使協定は、労働者憲章改正による一方的な集団協約改正を目指す政府の意向を振り切る形で、労使が独自に交渉し合意に達したもので、賃金抑制・雇用保護を主軸としたものになっていた。しかし協定から1年を経た現在、労組は雇用者側が約束した投資を行ってこなかったと批判しており、労組側だけが賃金抑制という「宿題」を課される状況はこれ以上受け容れられないとしている。この背景には、最近になって再びインフレ傾向が頭をもたげていることがある。8月の消費者物価指数は前年同月比で3.6%上昇しており、このまま行けば2002年の年間インフレ率は3.5%前後に達するとの見通しも出ている。そのため、労組は政府による公式推定インフレ率2%でなく、4%近い賃金上昇を求めて行くことが考えられる。

雇用者側は協定の更新を希望しているが、労組の戦略や、その他の政治的要因が交渉に影響を及ぼすことを恐れている。一方、政府は、労使間交渉が難航し協定が更新されなければ、昨年一度棚上げにした政府による集団協約改正案を再び取り出し検討するつもりであるとの「警告」を発している。

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