経済成長と雇用
スペインは先進国の間で生産性の向上が最も低かったグループに属するが、それでもユーロ圏の中では平均をやや上回っている。国際ランキングは別として、スペインにおける生産性の向上はかなり特殊な道をたどってきた。まず、このわずかな生産性向上が急激な経済成長を背景に起こったということで、つまり経済成長はほぼ全面的に雇用増大に向かった。事実、この期間にEUで創出された雇用の3人に1人までがスペインによって占められている。
一方、生産性の上昇率は70年代よりほぼ一貫して低下しており、1%を下回るところにいたっている。70年代から80年代にかけて生産性が経済成長を上回る5%近くの上昇を見せ、就業人口の減少につながっていたのに対し、90年代に入ると生産性の向上は下降の一途をたどっている。
このような文脈において見ると、経済成長率の低下に対する調整は、すでに好況期に見られた柔軟性を活用する形で行われるものと予想される。スペイン企業はどこでも有期雇用という手段に訴えることができるため、需要が減少すれば有期雇用を更新しないことでこれに対応することが容易に予想できるのである。
有期雇用と景気後退
無期雇用奨励のために行政側からとられた措置にもかかわらず、有期雇用を利用できる余地は大幅に残されている。2002年第2四半期には、スペインの賃金労働者の31.16%、400万人以上が有期雇用労働者であった。有期雇用の概念は各国の法制によって異なるものの、スペインは先進諸国の中で相変わらず最も有期雇用率が高い国となっている。
世界的に無期雇用労働者の労働条件が低下し、有期雇用労働者の条件に近づいたこともあって有期雇用が減少する傾向が広がっているが、スペインでは有期雇用率は一定に保たれ、同じく雇用の大幅な増大を見たギリシャやアイルランドの例と対照的である。
先進国における有期雇用率(1985年及び2000年)
1985年 | 2000年 | |
スペイン | 15 | 32 |
ポルトガル | 14 | 20 |
フランス | 5 | 15 |
オランダ | 7 | 14 |
ギリシャ | 21 | 13 |
日本 | 10 | 13 |
ドイツ | 10 | 13 |
デンマーク | 12 | 10 |
イタリア | 5 | 10 |
ベルギー | 7 | 9 |
イギリス | 7 | 9 |
アイルランド | 7 | 5 |
米国 | — | 4 |
ルクセンブルグ | 5 | 3 |
出所:OECD
他の先進諸国と比較すると、スペインにおける有期雇用率の分布がかなり特殊なものであることがわかる。まず、スペインでは有期雇用労働者に占める女性の割合が41%だけであり、他国の50%~60%よりも少なく、その意味においては女性を差別的に有期雇用する傾向が少ないといえる。若年層では一般に有期雇用が多く、スペインも例外でない。一方、より年齢が高くなるとスペインでは有期雇用が他国よりも少なくなるが、これはスペインの労働市場が長年にわたって終身雇用中心であり、有期雇用の導入が遅かったことによる。
農業部門における有期雇用率は他の諸国と似たようなものであるが、工業部門ではスペインは有期雇用率がより高くなっている。スペインでは技能・熟練度が高いほど無期雇用を得る可能性が高く、逆に未熟練労働者にとって無期雇用を見つけるのはほとんど不可能に近い。最後に、スペインでは有期雇用が小規模企業に大きく偏っていることがわかる。
ドイツ | 米国 | フランス | イタリア | 日本 | イギリス | スペイン | |
男性 女性 |
12.5 13.1 |
3.9 4.2 |
14.3 15.7 |
8.8 12.2 |
7.7 20.9 |
5.9 7.7 |
30.6 34.6 |
15~24歳 25~54歳 55歳以上 |
38.9 6.1 3.8 |
8.1 3.2 3.8 |
34.8 6.6 3.0 |
14.7 5.4 5.5 |
24.8 9.5 17.9 |
12.0 4.9 5.8 |
67.4 25.2 11.8 |
低い教育水準 中程度の教育水準 高度の教育水準 |
29.5 9.2 9.1 |
6.1 4.1 3.3 |
16.3 15.2 13.0 |
10.2 9.6 11.3 |
— — — |
5.3 6.0 8.9 |
36.6 29.5 26.2 |
農業 工業 サービス業 |
25.4 10.8 13.5 |
11.1 3.2 4.2 |
26.7 15.2 14.7 |
36.7 7.8 10.2 |
— — — |
8.2 4.7 7.4 |
60.0 37.7 27.7 |
ホワイトカラー ピンクカラー (女性のホワイトカラー) ブルーカラー 技能未熟練 |
10.0 10.3 10.9 15.1 |
3.5 4.2 3.7 7.5 |
9.6 13.7 13.3 17.8 |
6.0 9.9 5.1 15.6 |
— — — — |
6.5 7.3 4.9 9.5 |
19.7 30.9 36.6 49.1 |
労働者20人未満 労働者20人~50人 労働者51以上 |
13.4 13.4 11.1 |
— — — |
13.9 14.7 10.6 |
12.7 9.7 6.4 |
— — — |
6.6 6.7 6.6 |
40.3 26.9 21.1 |
出所:OECD
需要減への対応を迫られる場合、解雇にともなうコストを考えなくてもよい有期雇用は、企業側にとっては都合の良い手段である。しかしながら、逆に労働者側は個人的に不安定な状況に曝されることを意味し、しかもこれを補うような高い賃金を受け取っているわけでも全くない。スペインの有期雇用労働者の賃金は、平均で無期雇用労働者の賃金の53%となっており、賃金格差はEU諸国の間で最も大きい(EU平均は70%~80%)。社会的・人口動態上の差に由来する賃金格差を差し引いても、スペインの有期雇用労働者の賃金は、男性で16%、女性で19%、無期雇用労働者よりも少なくなっている。
有期雇用労働者は労働条件にあまり満足していないようで、全般的に満足している労働者の割合は無期雇用労働者の場合の90%となっているが、EU諸国の間ではアイルランドだけが満足度の差がスペインを上回っている。労働市場参入の差し迫った必要をもつ労働者にとって有期雇用が雇用の機会を与えてくれたというケースも増えているが、スペインの有期雇用労働者の80%以上は、無期雇用を見つけることができなかったためやむなく有期の雇用を得た労働者である。
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