民間最大労組アカミス、日系企業などとの「ノー・ストライキ」協定を破棄

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年12月

民間最大労組、Amicusのシンプソン新書記長は9月、使用者との間で締結してきた「ノー・ストライキ」協定を破棄していく方針を打ち出した。投票を通じて同協定を破棄する権利を組合員に与える。同協定を締結している日系企業も多い。Amicusは機械電気工組合(AEEU)時代に前書記長の下、同協定の締結などを通じて労使協調路線を最も積極的に推進してきた組合であるだけに、今回の方針転換で労働党政権が進めてきた労使のパートナーシップ路線に影響が出る可能性もある。

イギリスでは組合が労働条件などについて使用者と交渉できるためには、使用者から交渉相手として承認されなければならいが(組合承認)、組合を承認する一つの条件として使用者がしばしば持ち出すのが「ノー・ストライキ条項」であり、同条項を含んでいる組合承認協定を「ノー・ストライキ協定」と呼ぶ同条項の具体的な中身は一様ではないが、事実上、組合が労使紛争解決のためにストライキに訴えることはできなくなる詳しくは後述の「解説:ノー・ストライキ協定について」を参照)

Amicusが今回の方針を打ち出した背景には、ノー・ストライキ協定が使用者にあまりに大きな力を与えているとの訴えが多くの組合員から出ていることがある。シンプソン書記長によると、同協定は賃金や労働条件について交渉する従業員の権利を事実上否定し、また賃金協定について強制調停を課しているなど、明らかに労働者の利害に反する内容になっている。Amicusが同協定を締結している企業は32社あり、その中には日産、トヨタなどの日本企業や、LGエレクトロニクス、GOエアラインなど大手企業が含まれている。

最初の投票は可能な限り早期に実施する予定だという。組合員が破棄を支持した場合、Amicusは協定の諸条項について当該使用者に再交渉を求めることになる。その際、賃金、年金、職業訓練についての交渉権や争議権など、組合員の具体的な利益を確保するような承認協定を求めていくと、同書記長は述べている。

書記長はまた、今後Amicusがノー・ストライキ協定や、使用者が一つの組合だけを承認するシングル・ユニオン協定(後述)を締結することはないとの方針も表明している。

Amicusの今回の方針転換について、他の組合は歓迎の意を表している。AmicusはAEEU時代に、使用者に有利な協定条項を受け入れることで組合承認を獲得し、結果的に、他の組合は使用者との交渉相手として排除されてきたためだ。

なお、今回の決定には、今年7月の書記長で当選したシンプソン新書記長の強い意向が働いていると見られている。前任者のジャクソン氏は、労組指導者の中では最もブレア首相に近く、労使のパートナーシップ路線を先導していたが、シンプソン氏は元共産党系の活動家で、ブレア政権にはきわめて批判的。パートナーシップ路線を拒否することも明言していた。

解説:ノー・ストライキ協定について

同協定は、もともとイギリスに進出した日系企業が1980年代以降に導入しはじめたもので、多くの場合、「シングル・ユニオン協定」とのパッケージで導入された。すでに述べたように、シングル・ユニオン協定は一つの組合だけを承認するもので、同一企業内に複数の組合が存在する場合には、承認されなかった組合は使用者と交渉できなくなる。組合間の承認獲得競争はあたかも「美人コンテスト」の様相を呈し、シングル・ユニオン協定ないしノー・ストライキ協定は組合間紛争の新たな原因ともなって、イギリスに異質の労働慣行を持ち込んだとして、一時日系企業は批判を受けた。

こうした不利な協定を組合が締結せざるをえなかったのは、1980年代~90年代に前保守党政権が導入した一連の反組合的立法によって組合の影響力は弱まり、またそれを背景に、組合を否認する企業が出てきたためだ。

当然ながら労働組合会議(TUC)は同種の協定には否定的な姿勢をとっていたが、電気工組合(EETPU)や機械工組合(AEU)などはそうした意向を無視し、むしろ「新現実主義」を掲げて積極的に同協定を締結していった。1988年にはEETPUがTUCを除名される事態にまで至っている。

なお、EETPUとAEUは94年に合併してAEEUとなり、さらにAEEUは今年1月に製造科学金融組合(MSF)と合併してAmicus.となった(本誌2002年4月参照)。

2002年12月 イギリスの記事一覧

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