台湾への海外出稼ぎ、微妙な情勢に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年11月

タイ人の最大の出稼ぎ受入国である台湾との関係が難しい局面に立っている。2002年8月29日にタイ人労働者の保護に関する会談を行うために、台湾の陳菊行政院労働委員会主任委員長(労働大臣に相当する役職)がタイに入国する際、タイ政府は中国への配慮からビザの発給を拒否した。タイ政府は、「1つの中国」という考え方を支持しており、台湾の来賓を受け入れることがこの考えに矛盾すると考え、このような措置に踏み切ったとされる。

タイ人の最大の出稼ぎ先

タイからの海外出稼ぎは1980年代から始まり、当初は中東への出稼ぎが多かった。しかし、湾岸戦争以後、中東情勢への危機と台湾の大量の外国人受け入れ態勢によって、多くのタイ人が台湾に渡り、の建設業、製造業などに従事しており、台湾はタイ人労働者最大の出稼ぎ先となっている。

経済危機後の景気の低迷により、台湾での求人数減少や賃金引き下げなどの不安材料はあるものの、現在でもタイ人海外出稼ぎ労働者全体の約6割を占める、14万人のタイ人が台湾で働いている。その仕送り額は年間400億バーツ(1バーツ=円)にのぼるといわれている。

海外出稼ぎの問題点

しかし、出稼ぎ労働者の急増により様々な問題点が噴出している。台湾での労働条件・労働環境の悪さや契約不履行などといった台湾の使用者側の問題から、雇用斡旋機関の仲介・斡旋料詐欺事件といったタイ側の問題がある。政府の発表によると、1996年から98年の2年間で、仲介業者の斡旋料詐欺にあったとの被害届けが1万5000件以上出ており、被害総額は4億5000万バーツにものぼっているという(過去の具体的な出稼ぎ問題は本誌1999年9月号2002年7月号を参照)。

今回の台湾側との協議内容

この8月に予定されていた台湾側との協議では、両政府ともに仲介・斡旋機関に対する役割を強化し、労働者保護に努めるための2国間協議を行う予定であった。しかし、陳主任委員へのビザ発給を、タイ外務省が直前で拒否した結果、協議はキャンセルとなった。

タイ政府の発表では、台北にあるタイ国貿易経済弁事処(タイ大使館)の労働参事官が個人的に陳主任に対して招待状を作成したのが問題であったとしているが、参事官は政府のコメントは真実ではないと述べている。 

スラキアット外相は、「タイ政府は『1つの中国』政策を採用しているため、台湾を1国とは認識していない。経済問題の協議での訪タイであれば問題はないが、労働問題及び国際関係にまつわる協議に関しては慎重な態度が必要」としてビザの発給が遅れたと弁明しているが、要点は曖昧になっている。

台湾側は、この問題に関して、ビザ発行拒否の理由を明らかにするまでは労働者問題協議を再開することはありえないと、タイ政府の判断に対して強い反発の意を示しているという。

労働協定に調印がなされない場合は、台湾在住のタイ人労働者に何らかの影響が及ぶ可能性がある。また、タイ-台湾関係の悪化も懸念されている。

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