外国人労働者とタイ人海外出稼ぎ労働者

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

タイの記事一覧

  • 国別労働トピック:1999年9月

タイへ流入する外国人労働者

労働省は8月4日に期限が切れる約9万人の外国人労働者の就労期間について3カ月の延期を行うと発表した。タイで働く外国人労働者の多くはビルマ人で、ゴムや砂糖のプランテーション、養豚、精米、漁業といった産業でのみ雇用が許可されている。従来、上記のような産業の使用者は、タイ人の労働者が見つからないときにのみ雇用期限を延期要請することができた。しかしながら、6月の時点では要請が受け入れられず、外国人労働者を多く抱える東北タイの使用者側にとっても、また51県30万3000人の外国人労働者の雇用継続願いが県から雇用局に提出されていることからも、大きな問題となっていた。

特に、漁業とその関連産業は、タイ人労働者の確保が難しいため、8月4日以降の外国人労働者の雇用期間延長を要請していた。水産加工業はタイ人にとっては「汚く・きつい」とされる職業であり、雇用の確保が難しく、70のエビの加工工場では労働者の大半は外国人労働者であるという。そのため、政府の外国人雇用期間の延長禁止に最も影響を受けるのは漁業関連の産業であると見られていた。しかし、期限の前日である8月3日に労働福祉省は、このような事情を考慮し、外国人労働者の就労期間を3カ月延期することを発表し、問題を先送りする形をとった。

これまでのところ、3万5531人の違法労働者が国外追放、1754人が逮捕され、224人の使用者が違法労働者の雇用の疑いで訴えられている。こうした外国人労働者の大半が国境近くの東北部や北部から流入してくるために、雇用局では外国人労働者の雇用継続をそれぞれの県で決定する権限をもつことを提案している。具体的には、労働問題に関しての権限を地方に委譲する、いわゆる地方分権を促進するために、使用者と労働者が外国人労働者雇用を監視できるような、国を代表した県の労働機関を設立するという案が出ており、現在検討中である。ちなみに現在の法律では、県は外国人労働者を監視するための小委員会を開催するにとどまっている。

海外へ流出するタイ人労働者

一方のタイ人海外出稼ぎ労働者は年々増加してきており、1997年の経済危機以降は海外からの仕送りが家計の中でも、一国経済においても大きな役割を果たしている。受入先 労働者の受入先の第1位は台湾、2位はシンガポール、3位はマレーシア、他にもブルネイ、日本、イスラエル、香港、サウジアラビア、リビア、アメリカなどである。

2位のシンガポールに関して、外務省は、違法外国人労働者の取り締まりをシンガポール政府が強化する方針であることを発表し、タイ人労働者に注意を促した。外務省の報道官によれば、シンガポール政府は外国人労働者に対し、顔写真と指紋が押印された労働許可証を発行し、外国人労働者の行動を把握しやすくするために、許可証の履歴はコンピューターに保存される。また、違法労働者として逮捕された場合、投獄か鞭打ちもありうるとのことである。

3位のマレーシアは、隣国のため陸路で入国できること、高賃金、ビザが不必要といった労働力のプル要因が大きく働いている。経済不況にもかかわらず、マレーシア政府が1998年の7月から外国人の単純労働者の受け入れを始めた理由には、日本と同じく、経済発展するにしたがって、農業や建設労働者などの重労働できつい、いわゆる3K職種における人手不足がある。ただし日本とは異なり、マレーシアは不法労働者のうち近隣のインドネシア・フィリピン・タイの3国の労働者に対して順次労働許可証を与え始めた。政府としては、労働許可証を与えることで、労働者を管理しやすく、また税収を得るために好都合だと判断したと考えられる。

仕送り

コンケンのタイ銀行東北支店のレポートによれば、タイ人の海外出稼ぎ労働者の雇用を確保することが経済危機にある国の経済を助ける効率的な方法の一つであるという。海外で働くタイ人労働者(その大半が東北タイ出身)は1998年において19万1735人にものぼり、前年比4.6%の増加となっている。そして、彼らは約210億バーツもの仕送りを故郷タイへと送金している。

前述のコンケン県は送金受取額が最も多かった県で(約42億バーツ)続いてナコン・ラチャシマ県(約35億バーツ)、ウドンタニ県(約32億バーツ)となっている。送金元としては、ブルネイ、日本、マレーシア、香港、リビアなどで、タイ人労働者からの仕送り額は合わせて約126億バーツ、中東からは約43億バーツ、台湾とシンガポールからは約42億バーツとなっている。

今年の仕送り額は、バーツが昨年に比べ高くなっているために、合計金額では減少すると予想されている。またレポートによれば、同じ職務内容でも国内の労働者が月額3900バーツ受け取れるところを、海外では平均約1万5000から1万8000バーツ稼ぐことが出来るということが高額な仕送りを可能にしていると見られている。

斡旋業者

しかしながら、タイ人が国外で出稼ぎをする際には、仕事斡旋業者に約15万から18万バーツの手数料を支払わねばならず、海外の職探しをする際に大きな障害となっている。これに対して労働省は手数料を8万から10万バーツに値下げする新しい規定を認可し、その結果更に多くの労働者が海外へ向かうのではないかと予想されている。

また、高い斡旋料金に関して、新しい雇用斡旋会社がバンコク銀行と協力し、台湾で働きたいという労働者のために低利で資金を貸し出すという動きが出てきた。これは前雇用局長が多くの海外労働者が不法に高い斡旋料金を支払わなくてもいいようにとの配慮から実現した。具体的にはバンコク銀行が95サタン(100サタン=1バーツ)という非常に低い利子で労働者に資金を融資し、労働者はクルンテップ・タウィーという新しい斡旋会社の取り計らいのもと出稼ぎに行くというシステムである。労働者は銀行から、出稼ぎに関する出費を十分賄えるであろうとされる9万バーツまで借りることができる。ちなみに、労働者が通常の融資を申し込んだ場合、月3%、年36%という高利になるとされている。

この新しい斡旋会社は、健康問題や使用者との争いに巻き込まれてしまった台湾在住のタイ人労働者を支援する基金も設立する予定とのことである。バンコク銀行では、この低利融資によって台湾への出稼ぎ労働者の数が増加し、同行の2つの支店がタイへの仕送り送金サービスを担うことになるであろうと予測している。

1999年9月 タイの記事一覧

関連情報