国民健康保険法案可決、しかし制度の先行きに不安の声
本誌10月号でお伝えした、タイ初の全国民を対象にした国民健康保険の法的根拠となるもの。国民健康保険法案が2002年8月30日に上院で可決された。この法案は、タイ初の全国民を対象にした国民健康保険の法的根拠となる上院での審議の直前には、医師や看護士らの静かな反対運動があり、可決後にも労組の反対運動が起こった。
国民健康保険制度に反対する医師と労組
2001年4月から順次各県に導入された低所得者層を対象にした30バーツ医療制度、公務員の社会保障制度、民間企業の社会保障制度の3つを統合させ、1つの国民健康保健制度にするというこの制度改革は、数年の検討期間と数十回の聴講会を経たとはいえ、各方面から「時期早尚」とする声が上がっている。
8月28・29日には、健康保健制度の改革に反対する医師や看護士などの公立病院の関係者が、病院内で黒の腕章を着用するなどして静かな抗議を行った。これらの抗議は、バンコクだけでなく、トラン県、カンチャナブリ県、ウドンタニ県などの各地で行われた。
医師らの反対理由は、すでに導入されている30バーツの医療制度の欠点(病院への財政負担が大きい点、医療カード(ゴールドカード)の認知度の低さなど)を改正しないまま、統合された新制度に移行することは困難であるという点にある。
また、新法案では医師の医療過誤に対する責任を規定する条文が設けられ、医師の責任問題も問われることになる。その結果、アメリカのように患者からの訴訟が増える可能性もあり、訴訟を防ぐための医師らの過剰な医薬品投入や、リスクのある治療の敬遠などにも繋がるかもしれないと問題視する医師もいる。9月22日には、700人以上の医師がノンタブリ県で、会合を開き、患者に診察結果に満足であるという文書にサインを求めるなどの防衛対策をとることで合意した。
一方、兼ねてからこの法案に反対をしていた労組は、LCTを中心に100の組合関係者が集まり、法案が可決された次の日にバンコクに集結しデモを行った。
労組の反対理由は、1990年から積立てきた社会保障基金を、支払いをしていない低所得者に分配するという点が不公平であるというもの。制度の先行きはそれほど明るくないというのが各方面の見方のようである。
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