労働社会保障部、集団労働契約(労働協約)の普及を促進

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年10月

  労働社会保障部は、労使間で集団労働契約(労働協約)を締結することを推奨している。この政策の目的は、労使間の賃金交渉内容を可能な限り公開し、民主的に妥協点を見出すことにある。

実施の背景

中華人民共和国労働法33条は、労働者が、労働報酬、社会保障など諸問題について企業側と協議する権利を有することを明記している。

しかし、建国以来、労使間で労働協約が結ばれたことは非常に少なく、賃金改定は、企業内の労働人事部門が、利益額と労働者数を算定の基礎に、賃金改定草案を作成し、経営者側が最終決定を下していた。

このため、2000年、労働社会保障部は、「賃金労働協約制度の試行規則」を制定し、賃金協定を主とする労働協約制度を実施する上での法律的根拠を明確にした。

この試行規則により、労使間の協議で賃金協定が結ばれることになり、賃金決定の主体が、党・政府から市場に移行され、賃金協定の市場化が実現されることが期待されている。

労働協約制度の概要

労働協約では、賃金の配分制度、賃上げ率(賃下げ率)、報奨金・各種手当ての金額、賃金協定終了の条件、賃金協定の違反責任内容などを決められる。

労働協約の交渉は、工会が組織されている場合は工会主席、工会の無い場合は、「単位」内の半数以上の労働者が選任した代表者が担当する。

労働者の代表は、法的保護を受け、企業側は、代表者に対し差別行為を行使してはならない。

労働協約の期間は、普通1年間で、労使双方は、提案権、拒否権、陳述権を平等に有し、脅迫・買収・虚偽行為は禁止されている。

団体協約制度の導入例

(1) 北京市の取り組み

北京市では、2000年、団体協約の実質的試行が開始された。その中心的役割を果たしている北京市総工会は、15の国有企業で団体協約制度の導入を指導し、実現に至り、現在も比較的良好に試行されている。

2002年6月22日、北京市労働社会保障局は、「労働社会保障部の『賃金の労働協約の試行規則』の貫徹・実施の関係諸問題に関する通知」を発表した。この通知では、労働組合が組織された非国有企業においては、労働協約が実施されることを要請し、労働組合が組織されていない企業でも実施されることを希望している。また、国有企業では、賃金の労働協約を積極的に実施すべきであると強く指導している。

(2) 浙江省の取り組み

浙江省労働社会保障局も労働協約制度の普及に努めてきたが、特に台州市の飛躍ミシン集団公司の労働協約制度が、この地域の労務関係者の注目を浴びている。

同企業は、労働者の生産意欲を引き出すために、利益配分制度を大胆に改革し、労働者・工会・経営者からなる特殊な三者協議制度を実施した。

同企業は、労働協約制度を次の順序で実施している。

  1. 労働者の自己測定、自己評価し、自己報告
    自己測定の内容は、自己の労働能力、仕事の達成水準、勤務態度、企業に対する貢献度である。自己評価とは、自己の総合的な労働水準と労働能力に基づき、自己の賃金について考察と評価をすることである。自己報告とは、自己がどれほど賃金を受け取るべきか自分で申告することである。
  2. 賃金の民主的評価
    労働者の申告に基づき、労働者の所属部処が、当該労働者の労働能力や貢献度を評価する。この時、当該労働者はこの評価会には出席できない。一方、工会も当該労働者の労働に関する評価を実施する。
  3. 賃金の審査・決定
    三者が合同で、当該労働者の労働能力、労働態度、品質管理、貢献度などを基礎に、賃金を仮決定する。
  4. 審査、決定、公表 企業の総経理を主とした指導層が当該労働者の賃金を審査し、決定し、公表する。

賃金の民主的評価を取り入れたこの方法は、賃金配分における経営者側の恣意性を取り除き、労働者の賃金を経営者側が一方的に決定する方法を改革し、労働者の仕事に対する意欲向上に好影響を与えていると見られている。

今後の予想

現在、全国で5000余りの企業が、労働協約を締結し試行している。しかし、様々な理由から効果が余り現れていない。特に労働市場における供給過剰の現状から、程度の差こそあれ労働者が企業に従属し、工会の活動も制約され、労働協約の締結に悪影響を与えている。

また、工会が未組織の民間企業においては、現段階で労働協約制度を導入することは非常に難しく、工会の組織化から実施すべきだという意見が強い。

国有企業は、工会の組織率が高く、比較的導入が容易だと予想されていたが、(1)国有企業の持つ財産権の再検討が進む中で、企業の存続のために確保する資金額をどの水準に置くべきかについて論争中であること、(2)WTO加入以後、企業がグローバリゼーションの対応に追われ経営に余裕が無いこと、一般労働者の関心が低いことなどが影響し、労働協約制度の導入が遅れている。

こうした状況から総合的に判断すると、労働協約制度が全国的に広範囲に実施されるまでには、まだかなりの時間が必要だと見られている。

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