AFL-CIOの企業統治改革キャンペーン

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2002年10月

アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は、この秋の活動テーマとして企業統治改革を掲げた。エンロン社、ワールド・コム社などの著名企業が粉飾決算をしていたことが次々と明らかになり、企業会計、企業統治(コーポレート・ガバナンス)に対する不信感が募っている。AFL-CIOは、これを機に、組合員の増加、税負担軽減目的の企業の海外移転阻止、401kプランの改善、ストック・オプションを費用として計上すること、経営最高責任者(CEO)在職中の自社株売却制限などを求める活動を開始した。2002年7月30日、AFL-CIOのジョン・スウィーニー会長はニューヨークのウォール・ストリートで、労働者が保有している年金基金の力や委任投票権を有効に行使して、労働者の利益をより反映した企業行動をとるように要求すべきだと主張した。

最初に抗議行動の対象となった会社はスタンリー・ワークス社、フィデリティ・インベストメンツ社である。節税のためニュー・ブリテンからバミューダに本社を移転しようとしていた部品製造のスタンリー・ワークス社に対し、AFL-CIOと傘下労組は2002年7月29日、コネチカット州ニュー・ブリテンで抗議行動を行った。一方、7月31日には、ミューチュアル・ファンド大手で、企業年金401kプランの最大手でもあるフィデリティ・インベストメンツ社に対する抗議行動をボストンで行った。同社は何百万ドルもの労組年金プランを運用している。労組の批判は、同社のように多くの労働者の基金を運用している会社が、大株主として企業の役員選出などの投票でどのように投票したのか情報開示していないことに向けられた。同社のような機関投資家は、投資家である労働者や一般株主の意向を踏まえて投票しているかどうか明らかにすべきだとの主張である。これに対し、同社は、情報開示することは収益率向上につながらず、投資先の役員との良好な関係を保つことが困難になるとし、同社が各企業の株主として行った投票について情報開示を拒んでいる。

さらにスウィーニーAFL-CIO会長は、営業費用の一部を資産計上することで利益を水増ししたことが明らかになったことを発端に7月に経営破綻した長距離通信2位のワールド・コム社を相手取り、従業員の解雇手当を増額させるための破産審査裁判所における法廷闘争を計画している。この法廷闘争は、経営破綻したエンロン社元従業員を援助するためにAFL-CIOが行った活動に似ている。

エンロン社のケースでは、4200人以上の従業員が解雇され、労組がより公正な解雇手当支払を求めていた。労組は、元従業員に対する解雇手当が凍結されている一方で、同社が何億ドルもの金額を取締役に支払ったとする印刷物を債権者の銀行で配布するなどの行動を展開した。民主党政治家の協力もあって、2002年6月11日にAFL-CIO組合員、エンロン社、同社の債権者などが暫定合意し、元従業員に対し、解雇手当として、新たに少なくとも総額3400万ドル(一人当り1万3500ドル)を支払うことになった。この労組キャンペーンが開始されるまでは、元従業員への解雇手当の上限は一人当り4500ドルに過ぎなかった。

労組の活動は、企業会計不信の払拭を狙った政府の動きとも呼応している。ブッシュ大統領は7月30日、すでに上下両院を通過した企業改革法案に署名、同法を成立させた。同法は、企業の証拠書類改ざんなどを重罪とし、監査法人への監視を強化することを定め、企業統治の改革を促している。このような政治の流れとコネチカット州の地元政治家の働きかけもあって、スタンリー・ワークス社は8月1日にはバミューダへの本社移転を断念した。ただし、企業改革法案には、ストック・オプションを費用として計上することを義務づけていないなど不十分な面があり、労組は今後の運動の中で改善を迫る予定である。AFL-CIOはモルガン・スタンレー社、シティーグループ社、オラクル社などを相手取り、企業統治改善に向けた抗議を予定している。

2002年10月 アメリカの記事一覧

関連情報