大統領、8年ぶりに一括通商交渉権獲得

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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上院は2002年8月1日、ブッシュ大統領に今後5年間、一括通商交渉権を与える法案を64対34の賛成多数で可決した。同法案は、すでに下院を僅差で通過しており、両院通過を受けてブッシュ大統領が同法案に署名した。

大統領が一括通商交渉権を得たことで、政府が外国と結ぶ通商協定など複数の分野にわたる包括合意案について、大統領は議会に対し一括承認あるいは不承認を迫ることができる。議会が包括合意案の内容を一部修正することができなくなるため、審議の迅速化が期待できる。たとえば、自由貿易の拡大に消極的な労組や産業を支持基盤とする議員が、合意案の一部修正を求めることができなくなるといった効果がある。

フォード大統領以来、歴代の大統領は一括通商交渉権限を得ていたが、クリントン政権が94年に同権限を失って以来、クリントン政権は議会の反対で同権限の獲得に2度失敗している。米国は、これまでにイスラエル、ヨルダンとそれぞれ自由貿易協定(FTA)を結び、メキシコおよびカナダと北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでいる。しかし94年以来、世界では193のFTAが結ばれている。輸入障壁撤廃や投資自由化につながるFTA締結については、欧州連合(EU)などから米国は取り残されつつあった。ブッシュ政権は、2005年までにアラスカから南アメリカの南端までに及ぶ自由貿易圏を築きたいとしている。短期的にアメリカ経済が自由貿易拡大による大きな利益を得ることは期待できそうもないものの、政府はチリやシンガポールなどとのFTA締結を急ぐ構えである。

国際競争の影響を受けた労働者への支援策

ブッシュ政権と共和党は、議会での支持を取り付けるために、貿易拡大の影響で職を失う労働者への支援の大幅な拡大を同法案に盛り込んだ。今後、10年間120億ドル(現状の約3倍)の予算で、安価な輸入品の国内流入や工場の海外移転などにより職を失った労働者に対し、一時的な医療給付等の給付、職業訓練を提供する。この対象者には、農民など貿易から間接的に影響を受ける労働者を含める可能性がある。特に、工場がアフリカ、ヨルダン、カリブ海沿岸諸国に移転したために職を失った労働者には自動的に給付が支払われる。また中国、ベトナム、インドネシアに移転した場合も給付が実施される場合がある。

さらに、賃金保険(本誌2001年11月号参照)が初めて実施される。貿易の影響を受けて離職したと認定され、賃金保険制度に加入している50歳以上の労働者が、以前よりも賃金の低い職に移らなければならない場合、転職後の収入が年4万ドル以下であれば、転職前の賃金と転職後の賃金の差の50%(転職後の収入が4万ドル~5万ドルの場合には25%。5万ドルを超える収入を得る職に就いた場合には支払われない)を労働者に最長2年間にわたって支払う。なお、支給上限は、各年5000ドルとする。賃金保険制度は、今後1年以内に立ち上げる予定である。

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