建設業界、賃金協約交渉妥結
―建設労組のスト終結

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

対決色の強い2002年の賃金協約交渉において、IGメタルのストが収束してからも(本誌2002年8月号I参照)建設業界では3カ月にわたる交渉が妥結せず、スト回避を目指した調停も結局不調に終わり、建設・農業・環境労組(建設労組:IG Bau)は無期限ストのための原投票(Urabstimmung)を経て、6月17日に戦後50年以上経って初めての本格ストに突入した。だが、その後も調停は継続され、スト開始後1週間後の6月25日に労使交渉が妥結し、95万人の雇用者のために賃金協約が締結されて、ストは収束した。

1990年のドイツ再統一後、特に東独地域の建設ブームで建設業界は活況を呈した時期があったが、そのブームが去った後で同業界は構造的不況に陥り、1990年代半ばから今日まで雇用者の3分の1が職を失った。特に西独地域と東独地域の賃金格差、最低賃金以下の不当に安い賃金で外国人を含む建設労働者を雇用する闇労働市場等多くの問題を抱え、さらに最近では、2004年の欧州連合の東方拡大による東欧諸国の加盟により、これを契機とする東欧からの低賃金建設労働者の大量流入の問題等があり、連邦政府もその対策に苦心してきた。

このような中で、IG Bauの賃上げ要求4.5%から始まった2002年の賃金協約交渉は難航を極め、同労組の警告ストに進展し、ハイナー・ガイスラー・キリスト教民主同盟(CDU)前幹事長による調停も、東独地域の最低賃金を西独地域のそれに引き上げることをめぐって使用者側の強硬な反対があり、不調に終わった。しかし、その後6日間の本格ストライキと22時間に及ぶ最終交渉の末、建設労働者の最低賃金をめぐって妥協が成立し、ここ数10年で最も困難を極めた交渉は妥結した。

締結された賃金協約の内容は概略以下の通りである。

  1. 95万人の建設部門の雇用者は、2002年9月以降3.2%の賃上げを獲得する。6月から8月に関しては、それぞれ75ユーロの一時金を獲得する。4月と5月に関しては、遡及して賃上げは適用されない。
  2. 2003年3月から、新たな賃上げ2.3%が行われる。
  3. 賃金協約の有効期間は2004年3月までとする。
  4. IG Bauと建設業・建築業の使用者団体は、最低賃金(時給)の増額で合意する。
  1. まず最低賃金は9月以降、西独地域で3.2%増額されて10,12ユーロ、東独地域では1.5%増額されて8.76ユーロとする。この合意によって、IG Bauの当初の目標だった東独地域の最低賃金を西独地域の水準に合わせることは実現できないことになった。だが、2003年9月1日以降、さらに西独・東独の両地域で統一的に最低賃金を2.45%増額させることになった。
  2. 次に2003年9月1日以降実施する、熟練労働者のための特別の最低賃金を定め、これは西独地域では12,47ユーロ、東独地域では10,01ユーロとする。この熟練労働者のための最低賃金は、今回初めて合意されたものであり、従来存在したのは非熟練労働者のための最低賃金だけだった。

このような賃金協約の中で、今回導入された熟練労働者の最低賃金規定は、建設業界がEUの東方拡大に対する備えをする意味をもっている。そして従来の一般的な最低賃金同様、リースター労相によって一般的拘束力が宣言されて、実質上法律としての効力を与えられることになる。というのは、IG Basと使用者団体によって合意された賃金協約だけでは、東欧の下請け企業が建設現場でもっと低い賃金で労働者を雇うことを防げないが、この一般的拘束力宣言により、ドイツで活動する企業は、それが建設業界の使用者団体に所属しているか否かを問わず、この最低賃金の支払いを義務づけられることになるからである。

この熟練労働者も含めた最低賃金に関する賃金協約の合意は、シュレーダー連立政権(社会民主党主導)にとっても重要な政治的な意味をもっている。というのは同政権は、2004年のポーランド、チェコ共和国等のEU加盟があっても、ドイツの建設業界の賃金水準を確保することに努力を傾注しているからである。ガイスラー調停委員長もこの最低賃金の合意は不正な競争と不当な低賃金に対抗する有効な決定であると述べている。

ただ、このような最低賃金の協約規制にもかかわらず、建設現場での最低賃金の統制は、外国人労働者を低賃金で雇う闇労働の横行で実際は困難を伴い、それゆえシュレーダー政権はさらに賃金協約忠誠法(Tariftreugesetz)を導入して、少なくとも公共部門の注文主には協約賃金の支払いを法的に義務づけることを立法的に規制しようとしているが、これは野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の反対で、成立が困難視されている。したがって現時点では、野党の協力で闇労働の規制を強化して弊害を可能な限り除去することが、協約による規制と平行して目指されている。

このように、化学業界や金属業界に続き、難行を極めた建設業界の協約交渉は一応妥結したが、賃上げに関しては、6大経済研究所の大多数を含むエコノミストの多くは、妥結された賃上げ額は高すぎると批判的である。欧州経済研究センター(ZDF)のヴォルフガング・フランツ所長は、すでに締結された賃金協約の中で(注1)、雇用政策の観点からマイナスにならないのは化学業界の賃金協約だけで、建設業界では、雇用削減につながる恐れがあるとし、さらに高額の賃上げを嫌う企業の使用者団体からの離脱が拡大する恐れもあるとしている。また他にも、今年の賃金協約交渉は、控え目な賃上げ路線から離脱してしまった、失業を低下させる目標に消極的に作用している等の意見も主張されている。

部門  妥結内容 開始時点 有効期間
化学 3.6%、一時金85ユーロ 地域による 13カ月
金属 4.0%、一時金120ユーロ(5月) 2002年6月1日、
2003年6月1日以降3.1%
2003年12月31日まで
印刷 3.4%、一時金43ユーロ(6月) 2002年5月1日 2003年3月31日まで
保険 3.5%、一時金100 ユーロ(5月) 2002年7月1日 2003年9月30日まで
郵便 3.5%、一時金43ユーロ(5月) 2002年6月1日、
2003年6月1日以降3.2%
2003年4月30日まで
郵便銀行 3.2%、一時金57ユーロ(5月) 2002年6月1日、
2003年6月1日以降3.2%
2003年4月30日まで
建設 3.2%、75ユーロ 2002年9月1日 2003年3月31日まで
    2003年4月1日以降2.4%  

参考:Handelsblatt 2002年6月7/8、26日、労働側委託調査員資料

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