リストラの影響を懸念する労働医

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

6月4日~7日にグルノーブルで開かれた第27回全国労働医大会には2000人を超える労働医が参加し、企業のリストラが労働者の心身の健康に与える中長期的な影響について話し合った。「リストラは労働者の心と体の健康に中長期的な直接的影響があり、その経済的なコストは企業と社会にとって無視できないほどの規模に達している」というのがその1つの結論だ。経営者による苛酷な決定がサラリーマンの行動に与える危険についても強調されている。「異動や配置転換を宣告された労働者の中には、深刻な病気の診断が下されたかのよう、一瞬の狼狽の後、急にすすり泣きを始める者もいる」とある労働医は証言する。

診察である「1対1の対話」から告白が集められただけではない。証拠として示された疫学的調査では、対象者の職業カテゴリー別、性別、年齢別に、実際の影響が評価された。

懸念されるその調査結果では、労働医がほとんど手を打つことができない不安抑鬱症と直接的に関係する臨床的兆候(睡眠障害、栄養障害、怒りっぽさ、性欲低下、薬物服用)が見られた。そして、その最大の犠牲者は自分たちの労働の内容と環境に関する決定にほとんど参加できないブルーカラー労働者だった。

1998年にシャロン・シュール・ソーヌのコダック工場で行われた大規模な組織再編の後、296人の労働者を対象とした調査が行われた。この調査では、「将来への自信喪失」(51%)、「疲労」、「活力の低下」(47%)、「やる気の喪失」、「不安」などが評価されたが、年齢が高く周辺業務に配置されている人たちの間で再編の影響が大きく現れていた。

1998年に鍛造工場を閉鎖したルノー自動車産業では、労働者が体の不調や薬物服用量の増加に見舞われた。18カ月間にわたって実施された調査によると、確かにその影響は徐々に緩和されたものの、会社(現在ボルボとの合併の最中にある)の一般的な状況に対する不安はいまもって一部に根強く残っている。調査担当者によると、「新しい労働環境に慣れるまでに、1年近くが必要だった」という。

400人の労働者が仕事を変更することになったフランステレコムのイゼール県通信網建設・維持部門では、当初から不安抑鬱症と出勤拒否という大きな影響が見られた。フランステレコムの場合、イヴリーヌ県のヴェリジーで技術管理職員を営業職へ配置転換する際にも、同様の適応の難しさが見られ、反復労働や競争原理の導入によって引き起こされた一般的な緊張がその状況をさらに悪化させた。

おそらく、労働医は、言葉によって苦痛を和らげるために、労働者と向かい合い、危険な状態の人に支援を送り続ける必要があるのだろう。しかし、心の健康に関して、労働医にできることが限られているのも事実だ。「苛酷な」リストラが一種の心的外傷後ストレス障害を引き起こすのであれば、専門的な精神科医の治療が必要になる。一方で、リストラによる影響を職業病とみなすべきだと主張する労働医もいる。

だが、「主たる病気の原因を構成するのは、ときとして避けられないリストラそのものよりも、リストラがとる形である」との指摘は示唆的だ。その場合、安全衛生委員会などの労使同数機関の権限を強化し、事前通告を義務づけて、早目に対策を練ることが、有効な手だてとなるかもしれない。フランステレコムなどの企業では、医療チームが配置転換の悪影響を是正する目的で複数部門にわたるパイロット委員会を推進している。

2000年6月にリールで開催された前回大会のときに、労働医たちは労働条件に大きな影響がある週35時間制の実施に関与を認められなかったことに不満を表明していた。時代を反映するそのテーマは、2年後の今回、リストラに移った。

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