応募者の健康状態が障害者不採用の理由になりうる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

最高裁は2002年6月10日、全員一致で、健康に問題がある労働者が、さらに健康状態を悪化させる恐れのある職種に応募した場合、企業はこうした労働者の採用を拒否できるという判決を下した。

エシャザベル氏は1972年以来、独立契約請負人である企業に雇用され、シェブロン社工場で働いてきた。同氏はシェブロン社に直接雇用されることを希望し、健康診断で異状がなければ採用されることになっていた。しかし健康診断で同氏がC型肝炎であることがわかり、シェブロン社の医師は、精油業務で有毒物質にさらされると病状が悪化する恐れがあると警告した。シェブロン社は、エシャザベル氏を採用せず、同氏を雇用していた企業に対しても、同氏が精油工場で働くことを禁止するように要請した。エシャザベル氏は、それまで雇用されていた企業からも1996年に解雇された。

エシャザベル氏は、シェブロン社に対して提訴し、同社が同氏を不採用とし、さらに同社工場で働きつづけることを拒否したことは、障害を持つアメリカ人法(ADA)に違反していると主張した。これに対し同社は、機会均等委員会(EEOC)の規制に基づき、障害を持つ労働者の健康に対し職務が直接の害をもたらす場合には、不採用にすることは合法であると反論していた。これまでに、連邦地裁はシェブロン社の主張を認めたが、サンフランシスコの連邦巡回控訴院は、ADAの下で、EEOCの当該規制が規制当局の権限を越えているという判断を示し、最高裁の判断が注目されていた。

最高裁はシェブロン社が同氏を雇用する必要はないとし、健康上あるいは安全上の理由で障害者採用拒否が可能な場合があるという判断を示した。被告(シェブロン社)側のスティーブン・シャピロ弁護士は、この判決により、同社が自殺行為に共謀しないですむようになると判決を歓迎した。しかし障害者団体などは判決を批判している。エシャザベル氏の弁護士でもあるハーバード大学法科大学院のサミュエル・バゲンストス教授は、「議会はこれまで、応募者を採用しないのは応募者自身にとって良いことだとして、企業がある種の人々の採用を拒否する温情的な差別に対して強く反対してきた。しかし最高裁は、応募者に対する仕事上のリスク(危険)を理由に、採用拒否をしても良いと判断した。」と強く批判している。

ADAの下で州・市町村に懲罰的損害賠償責任なし

上とは別の件でADAの適用範囲を狭めるもう一つの最高裁判決があった。2002年6月6日、最高裁は全員一致で、刑務所に運ばれる途中で怪我をした車椅子使用の男性に対し、カンザス市に懲罰的損害賠償責任はないと判示した。州政府、市町村政府に対する懲罰的損害賠償を認めると、これらの政府の財政に大きな損害を与えかねない上、ADAの中に、州政府、市町村政府に対する懲罰的損害賠償を認めるという明示的な規定がないためである。この判示は、公民権法第7編に基づく人種差別訴訟にも適用される。

懲罰的損害賠償は、不法行為訴訟において加害行為の悪性が高い場合に、加害者に対する懲罰および一般的抑止効果を目的として、通常の填補損害賠償の他に認められる損害賠償である。懲罰的損害賠償が認められるタイプの事件であるかどうかは裁判官が判断する。ADAの制定に関わったジョージタウン大学のフェルドブルム教授によると、障害者差別を抑止するために、多額の懲罰的損害賠償が重要な役割を果たしている。またADA事件で原告の弁護士をしているゲーリー・フェラン氏によれば、懲罰的損害賠償がなければ弁護士報酬が減ってしまうのでADA事件に携わる弁護士が減るだろうと語っている。

この判決は、民間企業の使用者には直接関係ないが、ADAの内容を狭く解釈する最高裁判決として注目される。

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