予想以上に遅れている労働市場の改善

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年9月

2002年7月5日に労働省が発表した雇用統計によれば、失業率は5月の5.8%から6月5.9%に僅かに上昇した。4月に6.0%と高い失業率を記録した後、失業率は2カ月連続で5%台にとどまっている。2001年末には、2002年中に6.5%を超えると予測したエコノミストもあったことや、景気後退期後であることを考えると比較的低い失業率である。また新規失業保険受給申請者数も減少傾向にあるため、今後の失業率もしばらく6%以下で推移することを予想するエコノミストもある。

雇用の状況をさらに具体的にみると以下の通りである。6月に非農業部門雇用者数は3万6000人増加(5月に2万4000人増)したが、エコノミストが予測していた7万5000人増よりも小幅にとどまり、同雇用者数は前年同月である2001年6月よりも140万人減少している。

5月から6月にかけて失業率が大幅に上昇したのは、10代後半の労働者(16.9%から17.6%へ)、黒人(10.2%から10.7%へ)、ヒスパニック系労働者(7.0%から7.4%へ)などの労働者である。6月には、15週間以上失業している人の数が増加し310万人になった。このような失業者は、2002年になってから70万人増加しており、2001年6月の約2倍の水準になっている。

サービス産業、製造・建設業での雇用者数は、これまで同様、それぞれ増加、減少している。サービス産業では、4月から5月に6万人増、5月から6月に4万6000人増、一方、製造・建設業では、4月から5月に3万6000人減、5月から6月に1万人減(うち製造業のみでは4月から5月に2万7000人減、5月から6月に2万3000人減)となっている。このように、産業別雇用統計からは明確な雇用情勢改善を読みとることはできない。なお、人員削減が続いている電気通信産業は6月に8000人雇用が減少したが、この中にはワールドコム社が6月末に行った1万7000人の解雇は反映されていない。

労働市場改善を示す統計としては次のようなものがある。6月には、人材派遣業による雇用が9000人増加し、4カ月連続の増加となった。生産労働者・非管理職労働者の週労働時間も6月に0.1時間長くなっており、これら2つの動きは、今のところ企業がフルタイム従業員の採用に踏み切っていないものの、今後、フルタイム従業員が採用される可能性を示唆している。また6月には、工場における残業時間が長くなり週4.3時間になったが、これは1年半ぶりのことで、製造業の業績が改善していることを示す。生産性向上により、非農業部門生産労働者の時給は6月に0.4%上昇し14.76ドルになっている。

労働統計局は再び、これまでに発表した雇用者数について下方修正し、労働市場は、これまで考えられていたよりも改善が遅れていることがわかった。労働省による雇用統計修正は常に行われているが、2002年にはいってから下方修正ばかりが繰り返され、時には大きな下方修正がなされている。2月の非農業部門雇用者数6万6000人増は16万5000人減に、3月の同5万8000人増は5000人減、4月の同4万3000人増は2万1000人減に、5月の同4万1000人増は2万4000人増に、それぞれ下方修正された。この結果、非農業部門雇用者数は2002年4月まで13カ月連続で減少していたことになり、雇用減少幅がより大きかった1990年~1991年の11カ月間を期間の長さの点では上回っている。

今後の雇用に悪影響を及ぼしかねないと考えられているのは、過去約半年に各社で問題となった会計スキャンダルと、それに伴う株式市場の低迷である。エンロン社、ゼロックス社、アデルフィア社、ワールドコム社などで粉飾決算が次々と明るみに出たことで投資家や消費者の信頼が揺らいでいる。6月までには消費意欲の減退はさほど表面化していないが、今後、米国企業の資金調達コストが高くなれば、雇用にも影響が出る可能性がある。ある金融市場アナリストは、株式市場についての不透明感、会計スキャンダルへの捜査、規制強化の動きなどから、企業がビジネス拡大に二の足を踏んでいると分析している。実際、多くのエコノミストは、景気回復がフルタイム従業員の雇用拡大に必ずしも結びついていない理由として、会計スキャンダル、株式市場の低迷による先行き不透明感をあげている。

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