雇用なき景気回復
―3月の失業率、過去15年間で最悪

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

政府が発表した第1四半期の労働市場統計(速報値)によれば、同期に解雇された人数は4300人で、前の2四半期と比較して約半数に減ったものの、3月の失業率は4.5%で過去15年間で最悪を記録し、2002年末までには6%に達するとの厳しい見方も出ている。一方、同期の国内総生産の伸び率は年率7.7%で、前四半期の5.5%をも上回り、景気は確実に回復に向かいつつある。懸念されてきた「雇用なき景気回復」(現地エコノミスト)の様相が一段と鮮明になってきた。

悪化する雇用情勢

2002年の第1四半期の解雇者数は4300人。2001年の第4四半期の8591人、同第3四半期の8368人と比較して約半数に減った。経済を財生産とサービス生産の二部門に分けてみると、財生産部門が2000人、サービス生産部門2300人で、最近では初めてサービス部門が財部門を上回った。

このように解雇者数は大きく改善しているものの、雇用者数は1万6100人減り、3四半期連続の減少となった。しかも減少幅は今四半期が最大である。部門別では、財生産部門が1万1900人、サービス生産部門が4200人、それぞれ減っている。

これを反映して、3月の失業率は4.5%に達し、過去15年間で最悪となった。1年前は2.6%であった。これから新卒者が労働市場に参入してくるため失業率はさらに悪化するとみられており、ゴー・チョクトン首相は2002年末までに6%に達する可能性があると警戒を呼びかけている。

景気は回復基調に

労働市場が悪化を続けている一方で、景気の方は着実に回復へ向かっている。第1四半期の国内総生産は、前四半期に比べ年率換算(季節調整済み)7.7%増となり、市場予測を2倍近く上回る伸びを示した。前年比でも、前四半期は6.6%減であったが、今四半期は1.7%減まで回復している。政府は当初2.6%減と予測していた。

これを受けて、アナリストの多くが通年の成長率予測を4?5%に上方修正しており、政府も当初の1~3%から2~4%に上方修正している。

「雇用なき景気回復」

労働市場と景気とのこうした対照的な動向について、現地のエコノミストらは「雇用なき景気回復(jobless recovery)」と称しており、リー労働力相はメーデーの演説の中でこの用語を引き合いに出しつつ、「雇用確保」がひきつづき政府の最優先課題になると述べた。

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