賃金協約締結、化学労組が再び先行
―賃金協約交渉の動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

2002年の賃金協約交渉は、直前の「雇用のための同盟」の共同声明に基づき順調に推移した2000年と異なり、3月には金属業界でIGメタルが警告ストを実施して労使対決が深まっていた(本誌2002年6月号参照)。だが4月中旬に至り、化学業界では交渉が妥結し、賃金協約締結で化学労組が前回に続いてIGメタルに再び先行した。これに対して、IGメタルの強硬姿勢は変わらず、4月末にストライキ実施のための原投票(Urabstimmung)が行われ、5月初めにストライキに突入した。

以下、3月の警告スト後の金属業界の動き、化学労組の協約締結、その後の協約交渉の動きの順に、その概要を記する。

1. 警告スト後の金属業界の動き

IGメタルの警告ストは4月に入って断続的に実施され、4月3日に組合員1万人が参加してから参加者も増加して行った。だが、懸案となっていた労働者(Arbeiter)と職員(Angestellte)の賃金格差解消のための報酬基本労働協約(Entgelt-Rahmentarifvertr: Era)については、それに要するコスト上昇の負担をめぐり、当初難行した交渉にその後一定の歩み寄りがみられ、対決色の濃い今年の協約交渉に展望が開かれたかに見えた。すなわち、Era締結に要するコスト上昇は2.79%という算定で労使間の交渉が煮詰まり、このコスト上昇分は、労働者と職員が毎年の賃上げの一定部分によって向こう数年間負担することで、一応の合意に達した。また、Eraは12月31日までに締結し、各企業は導入のために2004年末まで準備期間を得て、さらに実施のために3年の猶予を与えられることになった。

しかし、IGメタルの6.5%要求で始まった賃上げ幅をめぐる交渉は、金属連盟が今年と来年の賃上げをそれぞれ2%と回答したこととの間で歩み寄りがみられず、Eraに関する交渉の進展にもかかわらず、協約交渉は依然難行した。

2. 化学労組の協約締結

これに対して化学業界では、化学労組(IG BCE)の賃上げ要求5.5%を土台として交渉が行われ(本誌2002年5月号参照)、要求内容自体と交渉における同労組の柔軟姿勢も功を奏し、IGメタルの対決路線を尻目に労使の交渉が進展し、4月15日に交渉が妥結して、業界57万人の雇用者のために以下のような賃金協約が締結された。

  • 賃上げの有効期間は13カ月とし、開始時点は地域に応じて決定される。
  • 最初の1カ月は一時金として85ユーロを支給する。
  • 続く12カ月間は賃上げ幅3.3%とする。この他賃金協約額を越える一定額の支給(化学労組は0.3%と見積もる)を加え、全体としては3.6%の賃上げとなる。
  • 1988年締結の労働者と職員の給与格差を無くす連邦報酬労働協約を改定する。
  • クリスマス手当を各企業の業績に応じて支給し、経営側と経営協議会の協議で支給額を月収の80~120%の幅で自主的に決定できる。この企業業績に応じたクリスマス手当の支給は初めて導入されることになった。

締結された賃金協約に対しては、シュモルト化学労組委員長は満足を表明し、他の部門に対して適切な協約締結のための目安を提供できれば良いと述べ、交渉相手の連邦化学使用者連盟(BAVC)も、賃金協約はドイツ経済の全体状況に適合しているとした。またシューダー首相も、妥結額は経済政策的に見て適切で、他の産業部門の模範になると歓迎の意を表明した。これに対して使用者団体は批判的で、例えばロゴフスキー産業連盟(BDI)会長は、妥結額は高過ぎて他の部門の標準にならないとし、この妥結額では企業の新規雇用に結び付かないと批判している。

3. その後の協約交渉の動き

協約締結を化学労組に再び先行され、賃金協約交渉の牽引車としての役割を自負してきたIGメタルが苦い思いをしたことは当然だが、化学業界での妥結の直後、ツビッケル委員長は、3.6%は後続の協約交渉にとっては最低限の要求を示すものに過ぎず、IGメタルはもっと高額を要求するとして、対決姿勢を強調した。

その後、金属連盟は、3月と4月に遡及して一時金190ユーロを支給し、5月以降の13カ月間は賃上げを3.3%とするという妥協案を提示した。これに対して、IGメタルは賃上げ要求を当初の6.5%からは後退させたが、最低4%という線を強硬に主張し、これをカネギーサー金属連盟会長は法外な要求と退け、交渉は平行線をたどった。

その後4月22日、IGメタルはドイツ全土の交渉地域で交渉決裂を宣言し、ストライキに訴えて当初の6.5%要求を貫徹することを決定した。連邦執行部は翌4月23日、スト実施地域を重点地域のバーデン・ビユルテンベルグ州の他に、ベルリンとブランデンブルグ州と決定し、この地域の20万人の組合員にストに必要な組合員の原投票(Urabstimmung)を呼びかけた。スト実施地域の原投票で組合員全体の75%の賛成が得られるとストを決行でき、原投票の時期は4月25日から30日と定められ、スト突入は5月6日と決定されたが、さらにペータース副委員長は、一旦原投票が行われれば、スト決行までに使用者側と再度の交渉はないとの強硬姿勢を示した。

その後、スト実施地域の原投票で必要とされる75%の賛成投票が得られ、5月6日にIGメタルはストに突入した。ストは無期限で、その間にさらに交渉が行われ、労使が合意に達するとストは終結するが、合意内容には新たな原投票で組合員の25%の賛成を必要とする。

金属業界での本格的なストは、1995年の賃上げ闘争の時のバイエルン州以来で、今のところ使用者側はロックアウト等の対抗手段を取っていない。だがこの間、統一サービス労組Verdiも銀行部門で協約交渉に入り、賃上げ6.5%を要求し、化学労組ではなくIGメタルの路線に従っており、他の産業部門に対する影響の面でもIGメタルのストの行方が注目される。

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