欧州委員会、英国の労働時間指令違反に対する法的措置に着手

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

英国政府は一週間の労働時間を48時間に制限するEU労働時間指令が十分に導入していないとして、欧州委員会がこのほど法的措置の手続きを開始した。労組はこれを歓迎する一方、使用者らはブリュッセルによる内政干渉に強く反発している。

欧州委員会は3月21日に、労働時間指令の条項を適切に導入していないと断定した警告の書状を英政府に送付し、5月21日までに弁明の回答を寄せるよう求めている。回答が満足のいくものでなかった場合、英政府に最後通牒を発し、それでも改善行動が見られない場合には、欧州司法裁判所に訴える。裁判所が指令違反の判決を下せば、英政府は指令の国内法である「労働時間規則」を改正しなければならない。

労組Amicusの訴え

欧州委員会の今回の動きは、英国最大の民間労組Amicusが英国では同指令は「不法」かつ「不十分」に導入されているとの訴えに応じたもの。とくに休憩・休暇に関する規定や超過労働時間の計測方法に不備があると指摘されている。ロジャー・リオンズ同書記長は今回の動きを「英国労働者の歴史的勝利」と評する一方、政府に対し、国内法の労働時間規則を指令に即したものに早急に改正するよう求めている。

週平均労働時間は欧州では英国が最も長く43.6時間。次に長いギリシアの40.8時間との開きは大きい。欧州の平均は40.3時間である。同書記長は、「今回の決定で超過労働時間は大幅に縮小し、ストレスは解消され、他の欧州諸国の水準に近づける」と期待を寄せている。

使用者は猛反発

これに対し、英国産業連盟(CBI)は怒りを露わにしている。CBIは、政府は労働者に長時間働かない選択肢を与えつつ、企業のフレキシビリティーを確保するというバランスを重視したのだと政府を弁護。政府に現在の立場を貫くよう求めている。またAmicusが欧州委員会に訴えたことに対し強い懸念を示し、労組は「選択肢とフレキシビリティーのバランス」に対する関心を全く欠いていて、労働時間を管理することしか考えていないと非難した。

指令の特別条項

2月4日に公表された労働組合会議(TUC)の調査によると、英国で一週間の労働時間が48時間を超えている労働者の数は約400万人で、全体の16%。10年前の1992年と比較すると35万人多くなっている。男性が大半で、男性に限ってみると4人に一人が週48時間以上働いている。また週55時間以上(一週間毎日8時間働いた場合にほぼ相当)働いている男性は10に一人、さらに60時間以上は25人に一人いる。

週48時間を上限とするEU労働時間指令を導入したにもかかわらず、これを超えて就労するケースが英国で 目立っている要因について、TUCは同指令に含まれている「特別条項」を英国が採用している点を指摘している。同指令の特別条項は、労働者が個別に合意すれば、週48時間を超えた就労を認めるものだが(本誌1998年6月号参照)、EUは同条項を来年2003年に見直したうえで英国の同条項の採用を認めなくなることが確実視されている。

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