公共部門の賃金上昇、民間を上回る

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年7月

英国では過去15年間、公共部門の民営化が大幅に進められてきたが、総雇用者数の約3割が今なお公共部門である。公共部門の労働者は、同等の民間労働者よりも7?10%高い賃金を受け取っており、その結果、最低賃金を受け取っている全労働者のうち、公共部門に属しているのは5%にも満たない。

他の条件が等しければ、公共部門労働者は平均的に見て、同等の民間労働者よりも若干高い賃金を受け取っているが、公共部門賃金は全国一律に決定されるため、生活費が高い都市部では必ずしも魅力的なものとは言えない。

加えて、公共部門の賃金上昇率は10年以上にもわたって民間に遅れをとってきた結果、賃金の官民格差が生じ、とくに看護婦、警官、消防士、教員など国民生活に必要不可欠な公共サービスを担うスタッフの確保が困難になっている。

この問題は住宅価格の高騰によってさらに深刻化している。住宅価格は、こうした公共サービス・スタッフを最も多く必要としている人口稠密な都市部で最も高騰しているからである。住宅ローンは一般に年収の4倍額まで組むことができるが、ロンドンの住宅価格の平均は16万ポンドであるのに対し、警官の平均年収は2万4000ポンド、消防士は2万ポンド、看護婦は2万ポンド以下にすぎない。その結果、たとえばロンドンの教員の欠員率はヨークシャーやハンバーサイドの5倍に達している。

こうしたことを背景に、現在、公共部門賃金は民間よりも相対的に上昇しつつある。インカム・データ・サービセィーズ(IDS)の公共部門賃金に関するレポート、『公共サービス賃金2001~02年』によれば、多くの公共部門賃金は民間よりも上昇率が高くなっている。

レポートは2002年についても同様な傾向が続くと予測し、その要因として、公共サービス労働者の雇用維持と地位向上を図る措置として能力給と複数年賃金協定が導入されたことを指摘している。能力給は公共サービス・スタッフの賃金上昇に寄与し、人員確保の有効な手段としてますます広がりつつある。また複数年賃金協定は、3年間に15~23%の賃上げを取り決めており、現在のような低インフレ期にはとりわけ魅力的である。

とはいえ、過去20年間にわたって定着してしまった公共部門の負のイメージは、そう簡単には払拭できず、大学生を始めとする若者に対する魅力をすっかり失ってしまっている。民間の会計士や銀行員の収入は、ロンドンでは地方よりも50%多いが、人員確保の危機を回避するには、同様な措置が公共部門にも必要だろう。昨年9月11日にニューヨークで起きた事件を教訓として、都市部緊急時における公共サービス・スタッフの重要さを再認識すべきではなかろうか。

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