農民の貧困救済と債務繰り延べ求めるデモがエスカレート

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年6月

タイの農民債務繰り延べに関するデモ(2002年4月号参照)は、未だに解決に至らないまま3月の債務支払期限を迎えた。都市での単純労働力の供給源となっている農村では、基幹産業である農業が農産物価格の低迷により振るわない。農村と都市の所得格差が拡大するに伴い、出稼ぎ労働者の問題や社会的な不安が増加していくため、農村・農業問題の解決が緊急の課題になっている。そこで、本稿では期限を目前に控えての激しい抗議活動が行われた3月と、支払期限を過ぎた4月の農民の抗議活動の様子をお伝えする。

農民の救済要求デモ続く、政府の回答は曖昧

タクシン首相の選挙公約では、現在農民の8割が抱えているという債務の繰り延べが盛り込まれていたが、特定の銀行から融資を受けた一部の農民だけしか繰り延べが認められないということと、繰り延べではなく帳消しにして欲しいと、強く訴えるため、激しいデモが各地で繰り広げられた。

2002年3月10日には、2000人以上の北部の農民と、市民団体がバンコクに集まり、農地改革と債務問題について政府に救済を求めた。団体の代表は、プラパット農業大臣と話し合いを行ったが、満足できる回答を得られなかったとコメントしている。

また、3月24日には、東北部のダム建設補償問題で抗議を行っている農民団体「貧民連盟」(Assembly of the Poor)と300人の農民が連携し、政府官邸前での首相との話し合いを要求。15名が柵を乗り越えて官邸に侵入しようとしたところを警察に取り押さえられるなど過激な動きに発展した。

そのため、警察庁長官のサント大将は「民主主義社会において、過激なデモ活動を制限する法律が必要だ」と厳しいコメントをしている。3~4年前に、これらのデモを規制する法律の草案が作成されたが、施行には至らなかったということだ。その内容は、講義活動やデモを行なうときには、前もって地元警察に届け出ることとし、違反者は1万~6万バーツの罰金または6カ月~3年の禁固刑に処するというものであった。同長官は、このような法律が、交通渋滞や公共物破損を防ぐという観点からも必要だと述べている。

3月31日には、全国各地の農民、約5000名がバンコクのチャトチャック公園に終結し、抗議活動を展開した。集まった農民達の代表は、「2001年にアユタヤ県に農民が終結した際に、政府は600万人の小規模農家集会(The Assembly of Small-scale Farmers)のメンバーの債務、合計3000億バーツの返済を帳消しにするとの約束をした」と主張し、その約束の実行を求めた。集会の代表は、その後首相とソムキット財務相に3回書簡を送り上記の約束について確認したが、何の返答もなかったという。

4月1日には前日に引き続き2000人の農民らが財務省前に移動し、同様の抗議活動を行ない、同集会の要求事項を政府に提出した。農民らは、「2001年に不良債権処理機構として設立されたタイ資産運用社(Thai Asset Management Corp.: TMAC)に1兆6000億バーツの公的資金を注入しておきながら、農民の債務に関しては、公的資金の注入が認められないのはおかしい」と主張している。

これらの主張に対して政府は、現在まで農民の所得向上や債務の負担軽減などの様々な政策を行ってきたため、このような批判を受けるのは遺憾だと述べている。

続く4月4日にも、54県から集まった農民数千人が、農民復興開発基金(The Farmers Rehabilitation Fund: FRDF)の政策についていくつかの要求を提出するため財務省前に集合しデモを行った。彼らは、同基金の予算である18億バーツのうち、農民の暮らしに何ら還元されることなく1000万バーツ以上が、基金の職員の給与などに消えていったと不満を漏らしている。同基金の債務処理の仕組みは、TMACとほぼ同様で、農民の債務を基金に集めて処理対策を行うというものである。

続く4月5日、農民のデモが激しくなっていることを懸念した財務省は、全職員を早退させ、財務省周辺の銀行も臨時閉店を行うという事態に発展したが、ついに政府は4月10日、同基金のサマーン事務局長の辞任と2000億バーツの債務帳消しを拒否する考えを明らかにした。バラテップ財務副大臣は、「400万人以上の農民の債務をすべて帳消しにすることは不可能だ。農民の要求は度を越している。農民の要求に従った場合、信用が失われ、金融機関の信頼を失うことになるだろう。すでに債務繰り延べ政策は実施されているので、それを利用して欲しい」と述べている。

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