予想以上に進んだ所得格差拡大

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

国立人文社会科学センターの全国人間開発レポートによると、所得格差が近年急進している。より技術的には、1995年に0.35に過ぎなかったジニ係数が最近では0.41にまで上昇している。所得分配の不平等度の尺度であるジニ係数は中国のジニ係数(0.404)とほとんど変わらない水準であるが、ベトナムは中国に比べ一人当たり国民所得が低い上、より急速に所得格差が拡大しつつある。

専門家によると、所得格差拡大の原因の一つは、1998年以来の米やコーヒーを始めとする農産物価格の下落と深く関わっている。この期間に都市部が比較的高い成長率を達成し、都市部と農村部の間の格差が拡大した。

経済発展と人間の開発指標(HDI)との間には正の相関がある場合がほとんどだが、地域差も見られ、地域ごとに異なった政策対応が必要であるとレポートは指摘している。ただしHDIが高い地域では、経済成長の便益を住民がより平等に分かちあう傾向があった。全国の諸地域は、経済発展が進んでいるか、HDI(平均寿命、教育、水・公衆衛生などの基本的な社会サービスなど)が優れているかどうかで4つのタイプに分けることができる。

  1. 経済発展、HDIともに優れている地域

    ハノイ・ホーチミン両市を始め、いくつかの省が該当する。しかしレポートは環境保護、社会的セーフティーネット、移住労働者流入問題などが政策課題であると指摘する。

  2. 経済発展、HDIともに立ちおくれが目立つ地域

    ライチャウ省、コントゥム省、ラオカイ省などが該当する。レポートは、初等・中等教育、公衆衛生、基礎的医療、インフラの整備などに政策を集中するよう要請する。

  3. 進んだ経済発展がHDIの向上に役立っていない地域

    主に南部のメコンデルタのいくつかの省が該当する。ここでは安定した経済成長と低い不完全就業率(注1)にもかかわらずHDIが低い。その原因は、水質の良い水や基本的な公衆衛生が十分でなく、教育レベルが低く技能労働者が少ないこと、さらに天災や市場価格の変化の影響を受けやすいことなどとされる。

  4. HDIは優れているものの貧困者が多い地域

主に北部地域、とりわけ紅河流域に多い。この地域には比較的学歴の高い人々が多く、基本的な社会サービスの提供においても優れている。しかし不完全就業が大きな課題になっている。農業以外の就業機会が限られており、この地域から他の地域に移住し収入の良い職をさがす人が多い。レポートは、経済環境の整備、情報提供体制の改善、国内・海外市場向けの非農業産業の育成に力を入れるべきだとしている。

国連開発計画(UNDP)のロバート・グロフチェスキ主任エコノミストによれば、レポートは、省間の所得移転を現在よりも効果的に行い、公共支出の地方分権化により地域ごとのニーズに的確に対応することの重要性を明確に示している。同氏は、国会で検討されている憲法改正が、このような問題意識を反映したものであることを評価している。

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