ハンガリー/中・東欧における労働市場の現状

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

中・東欧地域の労働市場の現状

ルクセンブルグに置かれている欧州統計局(Eurostat)が、中・東欧の労働市場の現状について比較調査の結果を最近発表した。この報告書は単なる労働市場の概観と予測にとどまらず、この地域の社会的・経済的将来も予想している。

この欧州労働市場の調査には以下の国々が参加した。

  • (a) 既にEUへの加盟を申請している国々―ブルガリア、チェコ共和国、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア。
  • (b) その他の中・東欧諸国でいわゆるPHAREプログラムに参加している国々、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア。

本調査に参加した国々すべてに共通している特徴は、これらの国が最近10年間に中央計画経済から市場経済への移行を実行してきた国だということである。このような政治経済体制の変更は国の経済構造にだけでなく、国民のエンプロイアビリティに対しても大きな影響を与えた。

この報告は雇用状況に焦点をあて、その観点から失業の増加に重点をおいている。雇用構造の変化と失業の増加はいずれも人口動態的状況(例えば、性別および年齢別構成)、諸経済部門の発展そして技能形成の進展を反映する。

本報告書が総じて述べていることの1つは以下の通りである。就業人口と失業人口の割合は調査を行った国の人口規模を反映し、ポーランドの人口3810万人、ルーマニアの人口2230万人、エストニアの人口140万人に当てはまる。労働人口、即ち15歳から64歳までの人口、はその国の人口の約3分の2であるが、この割合は人口動態の状況によりわずかながら影響を受ける。例えば、若年労働力の占める割合が中・東欧の平均よりも高いのはアルバニア(52.5%)とマケドニア(33.4%)だけである。

一般的経済発展に関しては、プロジェクトに参加している国々の大部分においてGDPの水準が上昇した。しかし成長率は、スロベニア、ルーマニア、チェコ共和国の例外を除いて、減速している。全体的には、2000年に雇用状況が改善されたにもかかわらず、一般的雇用水準は低下した。失業率に関しては、ハンガリーとスロベニアを除き1999年から2000年にかけて悪化した。しかしチェコ、スロバキア、エストニアは失業率の上昇を減速することに成功した。

就業人口の割合に関しては、ルーマニア、チェコ共和国、スロベニアでは、労働年齢人口の3分の2が雇用されているが、ブルガリアとマケドニアにおける割合は最低(50パーセント未満)であると言えるであろう。2000年の失業率は、ハンガリー、スロベニア、ルーマニア、チェコ共和国では10パーセント未満にとどまったが、マケドニアではその対極の30パーセントを示した。またその両グループの中間でブルガリアとスロバキアが20パーセントの失業率を示した。

25歳から54歳までの年齢では、平均で75パーセントが雇用されている。この年齢グループで就業率が最高なのは、チェコ共和国とスロバキア(80パーセント)である。グラフ上でその反対の極に位置しているのは67パーセントの失業率を示しているブルガリアと53パーセントの失業率を示しているマケドニアである。失業率は年齢が高い層で最も低く、年齢が低い層で最も高い。例えば、25歳未満の就業率はマケドニアで30パーセント、ブルガリアで15~20パーセント未満である。年齢の高いグループ、即ち55歳から64歳までを見ると、ルーマニアが38パーセントの就業率でトップの位置にある。さらに年齢の高いグループの就業率は、エストニアとリトアニアが40パーセント以上、ハンガリー、スロベニア、スロバキアが20パーセントであった。

若年者の失業率が最も高いのはマケドニアで、この国では10人の若者のうち6人が求職中である。しかしブルガリア、スロバキア、ポーランドでは若年失業率は約35~40パーセントである。

女子の就業率については、2000年には男子の就業率よりも10パーセント低かった。男女間の就業率の差が最も大きかったのはチェコ共和国で、この国では男子の就業率73.1パーセントに比べて女子の就業率が56.8パーセントであった。差が最も小さかったのはリトアニアで、就業率は女子が58.5パーセント、男子が61.8パーセントであった。男女間の就業の差は年齢が高くなるにつれて広がっている。男子は年齢が高くなるにつれて就業率が上昇しているが、女子は年齢が高くなるにつれて下降している。

「自営業」は伝統的に農業分野でもっとも多い就業形態である。例えばルーマニアでは24.4パーセント、ポーランドでは22パーセントの就業がこのカテゴリーに入る。小規模農場が雇用創出に果たす役割が増大している。チェコ共和国では雇用の14.5パーセント、ハンガリーでは14.6パーセントがこの形態によって創出された。

「長期失業」は、若年者失業と同様にこの地域の深刻な問題である。例えば、アルバニアの場合、1999年には失業者10人のうち9人までが1年以上の間仕事を見つけることができなかった。これに関して次のことは特記に価する。即ち、アルバニアは計画経済から市場経済への移行に伴う社会的経済的影響のうねりを、雇用も受けているばかりでなく、バルカン戦争地帯に近く、社会主義国家体制(以前は社会主義諸国の中でも最も堅固な中に数えられていた)から市場主導の民主的政治経済体制への移行プロセスをさらに推し進めるかも知れない。長期失業の影響について述べる前に、ハンガリーの登録失業者の主要な特徴に注目する必要がある。(表1参照)

表1 ハンガリーの登録失業者の主な特徴
特徴 2001年8月 前月比 前年比
人数 人数
登録失業者 344,965 -17,909 -4.9 -24,785 -6.7
初めて就業する者 31,247 304 1.0 1,047 3.5
25歳未満 76,184 -4,106 -5.1 -4.9 -4.2
男子 17,550 -10,912 -5.8 -4.9 -6.7
女子 167,415 -6,997 -4.0 -4.9 -6.7
ブルーカラー労働者 279,367 -15,760 -5.3 -4.9 -5.9
ホワイトカラー労働者 65,698 -2,149 -3.2 -4.9 -9.9
非熟練労働者 169,324 -9,134 -5.1 -4.9 -5.4
労卒労働者 12,754 -242 -1.9 -4.9 -3.3
失業登録者 34,421 -34,071 -49.7 -4.9 -27.2
初めて登録した者 11,501 -4,285 -27.1 -4.9 -6.8
長期間登録者* 81,328 -5,944 -6.8 -4.9 -20.5
長期登録失業者の割合、% 23,9 -0.2 -4.9
平均登録期間(日数) 291 13 4.7 -5 -1.7

*1年以上の期間、毎月連続して登録失業者のカテゴリーに入った者。

中・東欧諸国においては長期失業の問題が若者の求職問題と同様の重要性を持つ。長期失業問題は男子、女子に共通した特徴であるが、例外としてハンガリー、スロベニア、リトアニアでは、長期失業者数のカテゴリーに入っているのは女子に比べて男子が圧倒的に多い。しかし、ポーランドではパターンが逆になっており、女子の長期失業者の割合の方が男子よりも多い。

欧州統計局の雇用報告は、調査した国の労働市場の地域的状況にも特に触れている。欧州調査の結果によって、この国際雇用研究に参加した国の国内の地域差があることがわかった例もいくつかある。例えば、ハンガリーの場合、若年失業者の割合が10パーセント未満である地域は3つしかなかった。しかし欧州雇用報告書は労働市場の状況に関してもハンガリーの西部と東部の間に見られる大きな差異については触れなかった。(注:ハンガリー国内の様々な地域に住む世帯の相違について後述の予定)

上記の雇用報告書は、若年者失業について特別に章を設けて扱っている。労働市場へ参入してくる若年者(15歳から24才までの年齢層)の人口は労働市場から抜けていく高年者の人口よりも大きい。若年失業者の登録率が最も高いのは以下の国々である。

  1. ブルガリア:39パーセント
  2. ポーランド:36パーセント
  3. スロバキア:37パーセント

若年者の失業率が最も低いのはハンガリーであった。若年者失業の状況が最悪なのはブルガリア、ポーランド、スロバキアである。失業者3人のうち2人が職業紹介所を通して仕事を探している。その半数は友人、家族の助けを求め、40パーセントが定期的に新聞広告を利用して仕事を探している。使用者と直接連絡を取ろうと努める若年失業者は比較的少ない。興味深いことにブルガリアとスロバキアにおいては、若い女子のほうが若い男子よりも仕事の獲得に成功する率が高い。その理由としてひとつ考えられることは、女子はより高等教育を受け、男子よりもよい教育を受けている。そのため仕事も男子より容易に得ることができるようである。

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