憲法評議会が解雇規制強化条項の一部削除を命じる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

解雇規制強化に対して野党や使用者団体の激しい批判を浴びながら、労使関係に関する広範な内容を含む労使関係近代化法案は2001年12月18日に国会で可決されたが、同法の合憲性を審査していた憲法評議会は1月12日、「経済的理由に基づく解雇」の定義に関する条項を削除するよう命じた。ただし、その他の解雇規制強化策については承認されており、政府は、削除命令を受けた条項を削除した上で、同法を施行するものと見られている。

「経済的理由に基づく解雇」の定義に関する条項に削除命令

「経済的理由に基づく解雇」については、1989年8月3日法により、労働法典上に初めて定義規定が置かれ、労働法典L321-1条において、「労働者本人とは無関係の、特に経済的困難または新技術の導入に基づく雇用の削減または労働契約の本質的な変更を原因として、一つまたは複数の理由によって使用者が実施する、個人または集団の解雇」と定義されている。

昨年春以降、ダノンやマークス&スペンサーなど、次々と大手企業における大量リストラ計画の発表が社会問題化したことを背景として、連立与党である共産党の強い要請もあり、当時審議中であった「労使関係近代化法」案に急遽解雇規制強化につながる措置が盛り込まれた。その一つが、この「経済的理由に基づく解雇」の定義の変更である。具体的には、(1)「特に」を削除、(2)「経済的困難」の語句の前に「他のいかなる方法でも解決できない重大な」を挿入、(3)「新技術の導入」を「企業の存続が問われる技術の変化、または企業の活動を守るために不可欠な再編の必要性」に改める、の三点を求めていた。

(1)については、この「特に」があることにより、以下の事由は例示にすぎなくなるのに対して、これを削除することにより、事由を限定するという意味を持ち、(2)の「他のいかなる方法でも解決できない重大な経済的困難」かどうかの判断は、係争が生じた場合裁判所に委ねられることとなるが、その場合には、企業側が挙証責任を負うこととなる。また、(3)についても、あくまでも「企業を存続の危機に陥れるような」ものに限ることとされたことにより、その判断にも裁判所の介入が強化されることが予想されていた。

この条項に対して、憲法評議会は、企業の競争力保持を狙いとして決定された再編の進展を遅らせる危険性があり、かえって解雇を増やすことにもなりかねないと指摘するとともに、企業の経営上の選択を司法官が監視するという結果を招くと判断し、「事業の自由」の名の下に、「経済的理由に基づく解雇」の定義の改定を求めた条項を削除するという決定を下した。

その他の解雇規制関連条項は残る

憲法評議会は、このほかにも若干の法文解釈上の制限を付しているが、「労使関係近代化法」に盛り込まれている「経済的理由に基づく解雇」の定義改定以外の様々な解雇規制強化のための措置については承認しており、今後、政府は指摘された条項を削除の上同法を施行するのではないかとみられている(1月16日時点では、憲法評議会決定を受けた政府側からの今後の方針についての発表はなされていない)。具体的には、解雇手当の増額、「雇用調整計画【Plan Social】」に係る労使間協議期間の実質的延長、企業委員会における労働側の権能の拡大、工場閉鎖に伴う地元産業の再活性化のための資金拠出義務などがある。

大統領選を控えジョスパン首相陣営には失点

大統領選を3カ月後に控え、最も国民的関心を集めていた話題の一つである解雇規制強化において、その根幹部分が憲法評議会で否決されたことはジョスパン首相にとって政治的な失点となった。一方、解雇規制強化に強く反対していた野党、フランス企業運動(MEDEF)等の経済界はこの決定を歓迎している。

なお、憲法評議会は9人の評議員で構成されているが、そのうち6名は保守中道陣営に属しており、政府の解雇規制強化に対して何らかのブレーキがかけられる可能性を事前に予想する向きもあった。最近でも、週35時間制の社会保障負担軽減の財源を巡る問題で、政府の法案の一部削除を命ずる決定を下している。

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