トヨタ自動車、障害者差別訴訟で勝訴

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年3月

トヨタ自動車の元従業員が職務内容の限定などを求めていた訴訟で、2002年1月8日、連邦最高裁は、入浴や歯磨きなどの日常生活に支障がない場合には、障害者として認められず、障害者を雇用差別から保護することを目的とする「障害を持つアメリカ人法(ADA)」の適用外であるとし、元従業員の訴えを認めたシンシナチ連邦巡回控訴院の決定を取り消す判決を全員一致で下し、差し戻しを命じた。この判決はADAの保護対象を大きく狭めるものとして注目されている。

1990年からトヨタ自動車のケンタッキー州ジョージタウンの組立ラインで働いていたエラ・ウィリアムズ氏の弁護士によると、手根幹症候群と腱炎の発症により、トヨタは同氏を品質管理部門に異動させたが、痛みが治らなかったため、さらに別の品質管理部門への異動を命じた。後に職務内容に洗車が含められたため、ウ氏は職務内容をもとの職務に限定するように要求した。その後の経緯は、原告、被告で食い違いがあるものの最終的に同氏は解雇された。そこで同氏は、トヨタ自動車が障害者に対し「適切な便宜」をはからなかったとして同社を訴えた。ADAは、「主要な生活活動を大幅に制限する身体的または精神的な障害」を「障害」とみなしており、一審はウ氏の訴えを棄却したが、シンシナチ連邦巡回控訴院は、ウ氏がADAの定義する「障害」を持っているとして同氏の訴えを認めていた。

連邦最高裁の判決文でオコナー判事は次のように述べる。控訴院はウィリアムズ氏にADAの適用が適切か決める際に同氏の職務内容だけを検討するという誤りを犯した。手を使った動作について障害があるかどうか判断する際に重要な問いは、原告が仕事を遂行できるかどうかではなく、大部分の人々が日常生活の中で行う各種の動作をできるかどうかである。特に留意すべきことは、従事している職務に特有な動作は、大部分の人々の日常生活においては重要な動作ではない。故にウィリアムズ氏が職場の仕事を遂行できない状態にあったことは、手を使った動作能力が顕著に限定されていることに対する十分な証左ではない。また障害の影響は、生涯続くものか長期間続くものでなければならない。

連邦政府が運営する全国障害者評議会のアドバイザーでもあるキャスリーン・ブラック弁護士は、この判決は、「明らかに使用者に有利な判決で、多くの使用者が原告が障害者かどうかを問いただすことになり、障害者の職務遂行を容易にするために便宜をはかることもおろそかになるだろう」と述べている。

連邦最高裁は、近年、ADAの対象となる障害の内容について限定的な判断を示し、薬によって安定化が可能な高血圧や、眼鏡で矯正できる視力障害は、ADAの対象とはならないとしているが、今回の判決は実質的に「障害者」を文字通りの障害者に限定するものになっている。この点についてADA原案作りに携わったジョージタウン大学のフェルドブルム教授(障害者法)は、「最高裁判決は、障害者給付基準に関する法と市民的権利に関する法であるADAとを混同している。ADAが救済しようとしている人々は、障害者給付を受けるほど日常生活における障害がないものの、仕事をすることができない人々である」。同教授によると、ADAを制定する際に国会は「主要な生活活動を大幅に制限する身体的または精神的な障害」という、制定意図を反映しない語句を使ってしまった。そのことはADA制定に関する委員会のレポートを見れば明らかであり、最高裁がADAの意図を取り違えて解釈している以上、国会がこの問題について行動を起こすべきであるとしている。

多くの弁護士によると、今後、自分に障害があると主張する労働者は、カリフォルニア州法のようにADAよりも障害に関する保護がより手厚い州の州裁判所で障害者差別訴訟を起こすことになると予想される。ただし州裁が、今回の最高裁判決と同様の判断をするかどうかは今のところ不明である。

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