スペインの地下経済

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年11月

欧州委員会の様々な調査によれば、欧州連合(EU)内で近年地下経済が急増している。地下経済の名が示す通り、その全容をめぐる情報は当然不透明で、規模を正確に示すデータを見つけることは不可能である。それでも域内GDPに占める割合は1998年で7~16%、2000年には14~20%と推定される。全般にスカンジナビア諸国など北部ではこの割合は低く、逆にスペインを含む南欧諸国では高くなっている。2000年のデータに限ってみると、スペインではベルギー・ポルトガルと並ぶ22%と推定され、ギリシャの30%に次ぐ高さである。スペインのGDPの22%といえば、20兆ペセタ強にものぼる。

地下経済とは、利益に応じた税金を払わず、また労働者を社会保障制度に加入させないで雇用している企業活動のことである。スペインでは社会保障制度に加入せず働いている労働者が10人に1人程度と見られ、イタリア、ギリシャと並んで欧州では最も多い。

スペインにおける地下経済を見ると、いくつかの典型的なタイプが浮き上がってくる。地域的にはスペイン南東部のアリカンテ県から南部アンダルシア州にかけて、熟練度が低く回転の激しい女性労働者が多く、繊維・製靴業の小規模企業や農業部門、そして家事労働に集中している。アリカンテ県はスペインでも有数の製靴業地域であり、またイベリア半島の南東部は「スペインの野菜畑」と呼ばれ、温暖な気候と灌漑施設・ビニールハウスを活用して、国内市場だけでなく欧州各国への輸出向け野菜・果物を大量に生産している地方である。また建設部門も一般に地下経済が大きいとされる。

地下経済が増える背景には、企業が下請やいわゆるアウトソーシングを多用する傾向、IT技術の広まりにより従来とは異なる様々な労働形態・労働条件が可能になったことなどがあげられる。しかしこういった要因は時とともに修正可能なものである。

一方、スペインでは近年急速に移民労働者が増えているが、中でも不法な形で流入する移民が地下経済で増えている。移民はスペイン人労働者が嫌う低賃金重労働を行うことが多く、野菜・果物栽培のような労働集約型農業のほか、建設業、家事労働に多く見られる。不法移民の場合、見つかって逮捕されたり国外追放になったりする恐れから、劣悪な労働条件に甘んじざるを得ないことが多い。

スペインでは今後も移民労働者が増えることが予想される。ただし、移民労働者は地下経済のごく一部に見られるだけで、移民を地下経済の増大と直接結びつけようというのは正しくない。実際、最近では社会保障制度への新規加入者の中に占める移民労働者の割合の増加の方が注目されるほどである。

スペインで地下経済がはびこる最大の原因は、国民の間に納税義務を受け容れる文化が欠如していることである。これは逆に言えば、国が「富の再配分」機能を果たしているということに対する信頼が薄く、また納税者の平等が守られずに偏った税負担が見られるという意識が根強いのである。

その意味で、1996年以降の国民党(PP)保守政権の経済政策は、状況の改善にあまり役立っていないようである。例えば1999年より個人所得税減税が行われているが、これももっぱら高所得者層を利し、賃金労働者への影響は大きくないとの見方がされている。また経済自由主義に基づいた極端な市場尊重に傾くあまり、脱税取り締まりや労働監査がおろそかにされているとの印象も広がっている。

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