増加する雇用審判所への申し立て

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年11月

女性差別の訴え、増加

女性差別と同一賃金に関する雇用審判所への申立件数が2000年に4万件近くあったことが、8月発表の公式統計でわかった。妊娠して解雇されたケースが数百件、女性であることを理由に嫌がらせを受けたり昇進対象から排除されたケースが数千件に上っている。機会均等委員会(EOC)は、申立を行わなかったケースを含めると、数字は倍になるとしている。

統計は男女間の賃金格差についても明らかにしている。それによると、男性が1ポンド支払われるごとに、女性は82ペンスしか支払われておらず、また20歳になるまでにすでに女性の賃金は同職種の男性を10%下回っている。EOCは、イギリスの男女間賃金格差は欧州でなお最悪であるとし、各企業に男女を比較した賃金調査を法的に義務づけるよう政府に強く求めてきたが、政府は数10億ポンドのコスト増を企業に強いることになるとしてEOCの提案には消極的である。

雇用審判所への申立てに手数料徴収案

雇用審判所への安易な申立てが増えていることから、申し立ての際に手数料を徴収すべきとの提案が貿易産業省から出ている。1年以内にも法制化される見通しである。

雇用審判所への申立件数は2000年に25%増大し13万件にも達している。政府としては、手数料を徴収することで、調停による紛争解決を促すとともに、些細な理由での申立を思いとどまらせたい意向だ。

貿易産業省の提案では、徴収する手数料は、訴訟登録の最初の時点で50ポンド、調停後も訴訟を継続する場合は両当事者からそれぞれ100ポンド、となっているが(下位25%の低所得者層はその限りではない)、勝訴した方には手数料は払い戻される。

この提案の他に、金銭的に調停を受け入れやすい環境を整える案も出ている。具体的には、使用者が紛争解決の基本的な手段をもたない場合には雇用審判所による裁定額を増やし、逆にそうした手段があるにもかかわらず従業員がそれを利用しない場合には裁定額を減らす、というものである。

こうした案について、英国産業連盟(CBI)は歓迎の意向を表明しているが、労組や一部の労働党議員は労働者の権利を侵害するものだと反発している。

注(1964年に労使審判所(industrial tribunals)として設立され、1998年に雇用審判所 (employment tribunals)に改名された。弁護士資格のある審判長と2名の無資格者(一人は使用者団体が、一人は労働組合が、それぞれ指名する者)からなる三者構成裁判所である。不公正解雇、同一賃金、職場での性および人種差別など個別的雇用に関するあらゆる紛争事件を審問するほか、剰員整理の際の協議、労働組合の組合資格、組合に加入しない権利など、より集団的な事柄も扱うようになってきた。

2001年11月 イギリスの記事一覧

関連情報