波及効果大きい電気通信産業の不振

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年10月

2000年には電気通信産業(電気通信サービス提供企業および関連機器メーカーなど)の活況が、停滞気味であった製造業にも好影響を与え始めていた。たとえばペンシルヴァニア州スクラントンでは、業績不振に陥っていた航空宇宙産業の工場を買収したコーニング社が光ファイバー増産のために2500人を新規採用する計画を立てていた。2000年10月に同州スクラントンは30年ぶりに全国平均を下回る失業率を記録した。しかし、その後、電気通信関連製品の売り上げが激減し、コーニング社は2001年7月、建設中の工場を閉鎖し600人の解雇を発表した。今では電気通信産業が、人員削減を進める従来型の製造業とともに、この地域の失業率を押し上げている。

このような状況は、全国各地で見られる。電気通信産業は比較的規模の小さい産業だが、最近の米国経済の牽引役として重要な役割を果たしてきた。しかし現在、同産業は予想外の不振に陥っており、景気回復の足枷となっている。電気通信機器への支出は2000年に1240億ドル、これは国内総生産(GDP)の1.2%に過ぎないが、エコノミー・コム社のジェームス・グリーン氏の説によると2000年第4四半期から2001年第1四半期への経済減速の4分の1近くをもたらした。

電気通信産業やインターネットプロバイダーは過剰な生産(供給)余力を抱え、DSL(デジタル加入者線)サービス提供企業など、多くの企業が破産あるいはそれに近い状態にある。通信バブル崩壊は他産業へも波及している。同産業には、高株価を利用した株式交換などで、積極的に通信分野のベンチャー企業買収や出資を進めた企業が多いが、現在は巨額の評価損計上を余儀なくされている。さらに、銀行などの金融機関による通信関連企業への貸し付けが債務不履行となっており、金融機関が保有していた通信株の暴落により巨額の評価損が生じている。

電気通信産業における人員削減数(2001年年初以来22万5000職削減を発表)は、インターネットを用いた販売やコンテンツの提供などを行うドットコム産業での人員削減数を既に上回っており、今後も人員削減が続くものと見られる。電気通信産業労働者の報酬は、全国平均の年4万3000ドルに比べ、ほぼ5万7000ドルから7万5000ドルと高い。そのため、他産業に転職した場合、収入は減少している場合が多い。

特定地域に集中しているドットコム産業に比べ、通信産業は全国的な広がりを持っている上、下請けの製造業者が各地にある。インターネットのインフラを提供しているワールド・コム社は、シスコシステムズ・インターナショナル社、ルーセント社、ノーテル社のように電気通信機器を製造している会社に注文を出し、これらの会社の下請け工場を運営しているソレクトロン社、フレクストロニクス・インターナショナル社(2001年年初以来、4万5000人削減を発表)や、また、さらにそれらの下請けを行う無名の多くの企業が、部品納入を行っている。不動産会社は過去3年間、インターネット・ウェブページを管理するためのコンピュータ・サーバーや関連機器を収容するための「電気通信ホテル」を数多く築いたが、需要見込みを誤り、利用者がほとんどない地域もある。

2001年7月になっても、同産業に好転の兆しは見られない。コーニング社は7月上旬、1000人の追加人員削減と3工場の閉鎖を発表した。7月24日、電気通信機器製造のルーセント社は、既に発表した1万9000人の人員削減に加え、9月までに1万5000人から2万人を削減すると発表した。光ファイバー部品製造のJDSユニフェーズ社は、2000年まで増産に追われていたが2001年7月26日、従業員の35%にあたる7000人を一時解雇すると発表した。同社は、2001年初めの従業員の約55%にあたる1万6000人を解雇することになる。

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