ハンガリー/最低賃金引き上げに関する種々の影響および意見

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年8月

政府の楽政観的な見解

国立労働安全基準諮問評議会(Orszagos Munkabiztonsagi es Munkaugyi Fofelugyeloseg:OMMF)は、月間最低賃金の2000年における2万5500ハンガリー・フォリント(HUF)から4万HUFへの引き上げ(2001年1月1日から)に関連して、企業調査によると重大な悪用は見出されなかったとした。同調査は、24万4256人の従業員を擁する6748の企業について行われ、調査対象期間は、2001年の2月と3月であった。OMMF担当者によると、調査した企業の15%が、一般的に何らかの規則違反を犯していたが、最低賃金規則に関する違反は、それらの事例の4%以下しか占めていなかった。

本調査の結果からは、雇用契約の改定、労働者の一時帰休、粉飾契約の作成(例えば、契約上はパートタイムで雇っている労働者を、実際にはフルタイムで雇用している)などの、使用者による不法な慣行に関して一般市民が広くもっている悲観的な見方はそれほど実証されなかった。この点に関してパートタイムの割合(ないし「非典型」就労契約の割合)が最低賃金の導入前の期間に比較して1%しか増加しなかった点は指摘に値する。

調査対象企業の悪用ないし違法行為を、経済活動の種類別に評価すると、以下のような状態が判明した。

  • 企業の違法行為が一番多かったのは、建設業界においてであり、5社に1社(22%)が、何らかの労働規則違反をしていた。
  • その他の興味をひく悪用の形態は、調査された労働力のジェンダーに関連していた。調査では、51%の従業員が男子で、49%が女子であった。しかし、労働規則違反の事例をジェンダー別に見ると42%が男子、58%が女子であった。

このことは、男子労働者と比べて、使用者が女子従業員に対して労働規則違反をより多く行っていることを示すものである。

労働規則の種類別に違反をみると、最低賃金に関する使用者の違法行為は、以下のようであった。

  • 書面による雇用契約のない雇用
  • 外見上ないし粉飾の雇用契約(例えば、正式にはパートタイム雇用契約となっているが、実際には当該従業員はフルタイム従業員として使われている)。

OMMFが行った調査の最終結果から、政府労働監督局は、調査対象企業に8千万HUFの罰金を課した。

労働組合の見解

使用者は、従業員に最低賃金を支払う代わりに、パートタイム雇用慣行を利用している。

小売部門での労働組合は、従業員について、最低賃金引き上げの影響に関する賃金調査を実施した。同調査は、小売部門従業員労働組合(Kereskedelmi Alkalmazottak Szakszervezete:KASZ)により、小売部門の2万7300人の従業員を擁する192の小売企業について実施された。多国籍企業および従業員5人以下の企業は、同調査に含まれなかった。先に提示した政府による調査結果と同じように、調査結果によると、労働組合幹部からも、57%の最低賃金の引き上げに関して、小売部門で営業する企業に違法行為の著しい増加は見出されなかった。この部門の37%の従業員が、最低賃金水準の賃金を支払われているという事実にも関わらず、顕著な一時帰休も記録されなかった。 企業は、下記の方法を用いて、引き上げられた最低賃金の支払いを回避しようとしている。

  1. フルタイム契約をする代わりに、使用者はパートタイム契約を結ぶ。従業員の21%が、パートタイムで働いている。最低賃金の導入以前には、小売部門の5%の従業員しかパートタイム雇用契約では雇用されていなかった。
  2. 補助店員、レジ係、および倉庫従業員は、「外見上のパートタイム」労働契約を受け入れているが、実際には彼らはフルタイム従業員と同じように働いている。当該従業員は、退職手当の点では、この形態の雇用が不利であることを認識していない。
  3. いくつかの事例では、使用者は、労働密度の増加の必要性を指摘していた(31%)。彼らは、最低賃金引き上げにより、従業員奨励金(15.6%)の利用を止め、超過勤務手当てを支払わず、食費補助の支給も打ちきることを考えている。

使用者団体の見解に見られる最低賃金引き上げの影響

近い将来、ハンガリー政府は、2001年1月1日から実施された最低賃金引き上げのもたらす不利な影響をどのように相殺するかについて討議交渉をする予定である(表:過去6年間の最低賃金上昇の経過を参照)。

ハンガリー首相の発表に拠れば、政府は、ハンガリー産業貿易会議所と共に、2000年(2万5500HUF)から2001年(4万HUF)にかけての著しい最低賃金の上昇の後、中小企業経営者への埋め合わせを図るため新しい制度を策定する予定である。政府の措置は、中小企業経営者に対するハンガリー産業貿易会議所による調査から大いに影響を受けている。調査結果に拠れば、面接を受けた経営者の3分の1以上が、最低賃金の60%の引き上げによって、従業員を解雇し、あるいはパートタイム労働を導入しなければならなくなったと苦情を述べている。ハンガリー産業貿易会議所会頭は、重要な「労働市場基金」を用いて、困難な状況にある中小企業経営者を援助することを提案した。

政府とハンガリー産業貿易会議所が共同で策定した提案は、失業率が10%以上で、20人以上の労働者を雇っている低賃金部門(例えば、繊維並びに被服産業)を有する地域は、政府の財政的支援を受ける権利があるとしている。最低賃金引き上げによる不利を埋め合わせるよう、この計画は、中小企業経営者の著しい社会的負担の増大(25~75%の間)を補填することを意図している。

現在、この目的のために、20億HUFの財政資金が用意されているが、ここから支出する額は、労働市場基金理事会が決定する。6人の理事が政府代表から選ばれ、残りの6人が使用者並びに労働組合連合の代表者である。従業員と使用者の利益を代表する団体の代表は、この提案の策定には関与していなかった。彼らは新聞でそれを読んだに過ぎない。彼らは多分、政府とハンガリー産業貿易会議所が共同で策定した提案の簡単な説明に異議を唱えたり、拒否することはないだろう。使用者団体も労働組合も、何回かにわたって補填の必要に関する提案を提起しているからである。その主張の中で、これらハンガリー労使関係団体の利益代表は、高度経済成長により、中小企業経営者に対して計画されている補填に必要な財政的資源は保証されるとしばしば述べている。

最低賃金の上昇:1997-2002年

最低賃金水準(HUF:ハンガリーフォリント)(*)
1997 17000HUF
1998 19500HUF
1999 22500HUF
2000 22500HUF
2001 40000HUF
2002(**) 50000HUF

注:(*)1円=2.4 HUF (**)予測ないし計画値

出典:Nepszabadsag、2001年3月21日、p.11

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