労働法典改正に向けた論議

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

社会問題委員会での議論

労働法典の改正は次の国会の会期で検討されることになる。社会問題委員会では、3月12から14日にかけて、議論が交わされた。

論点の第1は、労働法典の規定が不十分、あるいは現実の制度に対応していないことの指摘。労働法典第57条では、社会保険と医療保険の運用のための算定基礎として、政府が賃金等級と賃金表を公表することになっている。しかし実際にはこの規定は国有企業だけにあてはまり、他の企業はほとんど導入しておらず、国有企業でさえ賃金表通りの運用とはなっていない。したがって, 第57条について、「政府は指針を示し、企業自身が給与制度を定め, 権限ある機関に届け出るよう改正すべきである」という意見が出された。

第2の論点は制裁措置。労働規律に違反した者に対し、第84条が3種類の制裁措置(譴責、最高6カ月間の減給と他業務への配置換え、解雇)を規定しているが、実施のための条件が未整備のため、制裁が効果的に実施できないという問題がある。特に、配置換えをした場合の新しいポストでの処遇が容易でないので、6カ月以内の減給と他業務への配置換えという選択肢は、事実上実施困難という問題がある。さらに、最低給の従業員については、減額できないという問題がある。したがって、この規定を改め、減給幅及び減給期間を長くする方が、合理的であるとの意見が出された。

第3の論点は労災、職業病への補償。第107条は、労働能力が81%以上減退した労働者に対しては、使用者は少なくとも30カ月分以上の賃金相当の補償をしなければならないと規定しているが、この規定は、81%という基準が高すぎるとの批判が濃い。したがって、従業員が労働災害あるいは職業病により5%以上労働能力が減退した場合にも、補償を受けられるという方向で、法改正されるべきだと提案している。

産業界と労組の意見

ホーチミン市の産業界と労組は、2001年4月9日の会合で、政府と関係省庁に対し、労働法の改正点について提案した。繊維・衣服産業協会のグエン・ドゥク・ホアン副会長は、米国や欧州連合(EU)との取引のためには、労働者に対し社会的責任(social acccountability)を取っていることを証明するSA8000の認証を受ける必要があるが、国内の繊維・衣服産業の使用者でSA8000を得ている者が存在しないことを懸念すると語った。そして、ベトナム企業がSA8000を獲得できない理由として、大部分の繊維・衣服企業が超過勤務に関する法律に違反していることを指摘した。同副会長は、季節ごとの納期に間に合わせるために、労働者が長時間の残業をしている近隣諸国の繊維・衣服産業と競争できるように、年間超過勤務時間の上限を現在の200時間から600時間に変更すべきだとした。繊維・衣服産業協会によると、香港は超過勤務時間に関する規制を持たず、中国では月36時間(年400時間以上)、マレーシアでは月104時間が超過勤務時間の上限となっている。

また会合参加者からは、多くの使用者が、労働法の不備を利用して労働者の権利を侵害しているという意見が出された。中でも、最低賃金、労働条件、保険、退職・失業手当などで労働者が不利益を蒙っているという。

会合に参加した労働・傷病兵・社会問題省(MoLISA)のファン・ドゥク・ビン副法制部長は、2002年上期に政府に改正案を提出するために、MoLISAは産業界などから意見を聞いており、重要な改正点は、監察、組合費、歳末ボーナス等になるであろうと述べた。

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