傷害・年齢を理由とする雇用差別

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

障害者差別

「障害を持つアメリカ人法(ADA)」は、障害者を雇用差別から保護することを目的とするもので、1990年以降、同法に基づき何千件もの訴訟が起こされてきた。例えば、最近、雇用機会均等委員会(EEOC)は、手荷物取り扱い係の採用時の医療検査で、少なくとも3人の糖尿病患者やてんかん患者の採用を取り消したとしてノースウエスト航空を提訴している。EEOCは、ノースウエスト社が、採用を取り消した各個人の職務遂行能力を評価しておらず、ADAに違反していると主張している。一方、同社は、不採用の理由は、乗客および従業員の安全を確保するためと反論している。

連邦最高裁は、近年、ADAの対象となる障害の内容について限定的な判断を示しており、薬によって安定化が可能な高血圧や、眼鏡で矯正できる視力障害は、ADAの対象とはならないとの判決を示している。連邦最高裁は、ADAの対象となる障害の種類と、障害者に対する使用者のとるべき対応について、2001年10月以降、2つの訴訟案件について審理する予定であり、これらについての最高裁の判断は、今後の訴訟に大きな影響を示すものと予想されて

いる。

1件目の訴訟では、手根幹症候群のような反復運動損傷(限定的な障害と考えられる)がADAが定義する「障害」にあたるかが争点となっている。訴えたのは1990年からトヨタ自動車のケンタッキー州ジョージタウンの組立ラインで働いていたエラ・ウィリアムズ氏。同氏の弁護士によると、手根幹症候群と腱炎の発症により、同社は同氏を品質管理部門に異動させたが、痛みが治らなかったため、さらに別の品質管理部門への異動を命じた。

しかしウィリアムズ氏が、この異動を拒否したため、解雇された。そこで同氏は、トヨタ自動車が障害者に対し、「適切な便宜」を図らなかったとして同社を訴えた。ADAは、「重要な生活活動を大幅に制限する身体的または精神的な損傷」を「障害」とみなしており、シンシナチ連邦巡回控訴院は、ウィリアムズ氏がADAの定義する「障害」を持っているとして

同氏の訴えを認めた

アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)の安全衛生局長・ペグ・セミナリオ氏は、同氏を支持し、手根幹症候群は、労働者が働けなくなるほど重い傷害であると述べている。一方、ギブソン・ダン・クラッチャー法律事務所のバルチ・フェルナー弁護士は、手根幹症候群をADAの対象とした場合、企業が採用時に応募者の手根幹症候群の発症可能性を調べざるを得なく、かえって同症候群にかかりやすい人の不利益につながると述べている。

最高裁が10月以降に判断を示すもう一つと予想される二番目の案の件では、障害者に「合理的な便宜」をはかるため、先任権に例外を設けるべきか、というが焦点となる。USエアウェイズ社の貨物部門で働くロバート・バーネット氏が腰痛を起こし、同氏が郵便室への

異動を希望したが、同室は先任権の高い従業員が優先的に配属される部門であったことから、US社は、この同氏を郵便室に仮配属したものの、正式な配属とはしないまま、事実上は、「職務上の傷害による休暇」を与えた。これに対してバーネット氏は、同社がADAの定める障害者への「合理的な便宜」をはからなかったとして1994年に提訴、カリフォルニア地裁は、略式判決でUSエアウェイズ社の主張を支持したが、サンフランシスコの連邦巡回控訴院は、障害者に便宜をはかるために先任権に例外を設けるべきだとしてバーネット氏の訴えを認める逆転判決を言いわたした。

年齢差別

EEOCは、米国主要企業に管理職を紹介するヘッドハンティング会社、スペンサー・スチュアート・アンド・アソシエーツ社が、40歳以上の中高年労働者に対する差別を禁じた、「雇用における年齢差別禁止法」に違反したと考えられるとする調査結果を2001年3月15日に発表した。これはヘッドハンティング会社がフォーチュン500企業の依頼に応じて候補者の年齢に関する情報を提供たもので、同社の顧客は、35歳から45歳までの候補者の紹介を求めていた。

この件で1998年10月に申し立てをしていたアメリカ退職者協会(AARP)とEEOC、およびスペンサー・スチュアート・アンド・アソシエーツ社は、和解に向けた調停を進めているが、合意に至らない場合には、EEOCとAARPが連邦裁判所に提訴することができる。管理職採用にあたり、40歳以上の者が差別される事例があることは良く知られているが、証拠があることは珍しく、本件では、スペンサー・スチュアート・アンド・アソシエーツ社の元従業員が同社の内部文書をAARPに持ち込み、同社の採用方法について情報提供したという特殊な事例がある。EEOCは、同社が、他のいくつかの顧客企業に対しても、口頭もしくは文書で候補者の年齢に関する情報を定期的に伝えており、年齢を雇用差別の目的で用いていたと主張している。 

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