ハンガリー/最低賃金の急激な上昇任

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年5月

三者構成労働関係制度である全国労働協議会(National Labor Council)は、ハンガリー政府の勧告を受け入れ、法的最低賃金を2001年1月1日より25万500フォリントから4万フォリントに大幅に引き上げた。この大幅賃上げは、一般的には世論の賛成を得たが、労働関係の社会的パートナーはこの決定のマイナス面と危険性に注意を喚起している。

使用者側で最も危機的な状況にあるのは、中小企業と従業員5名未満のいわゆる「零細企業」の代表者からなるグループである。例えば、全国小売仕出し部門協会(National Association of the Retail and Catering Sector)の代表らは、最低賃金の引き上げは次のような結果につながると指摘している。「最低賃金が1カ月25万500フォリントから4万フォリントに引き上げられれば、この新しい最低賃金に関連する様々な社会的費用も1カ月あたり2万7000フォリント上昇する」。この社会的費用の上昇は80万人近くを雇用している20万の小企業に影響を与える。このような社会的費用の大幅な増大は税金の大幅引き上げに似ており、事業主がそれを支払えるかどうかは分からない。1カ月当たりの新しい最低賃金が発表されて以来、小企業事業主らには次のような反応がみられる。

  1. 小企業数社は雇用規模の縮小に手をつけ、従業員を解雇した。
  2. 使用者はフルタイム従業員のかわりにパートタイム従業員を使用している。

特記すべきことは、新しい最低賃金水準の設定によって小企業が困難に陥っただけでなく、公共部門と病院もまた困難な問題を抱えることになったことである。ハンガリー病院協会の会長が最近指摘したところによると、国内の大部分の病院は最低賃金の引き上げに必要な財源を持たない。そのため、最低賃金の引き上げは雇用の切り捨てを伴なうことになるだろう。

最低賃金引き上げにより困難に直面した部門としては、この他に、障害者を雇用している企業が挙げられる。このような企業は政府から多額の補助がなければ存続できないが、その補助は最低賃金との関係で150%から300%と様々である。このような企業の大多数は収益を上げることができず、2万5500フォリントから4万フォリントへの最低賃金の引き上げを補うのに十分な財源を持たない。したがって、政府の補助金が増額されない場合、これらの企業が最低賃金引き上げを実現するには雇用削減(社員のレイオフ)に頼るしかない。このような雇用削減は、社会的・人間的に極めて否定的な結果をもたらす。ハンガリーには70万人の障害者が存在するが、そのうちわずか3万人しか雇用されていない現状を見れば、この問題の大きさがわかる。しかも国の補助金の場合でも状況はよくならない。なぜなら、国の補助金は企業の生産量に基づいているからである。この部門の従業員協会が査定したところによると、最低賃金が上昇したためこれらの企業は2001年には生産量を増やすことができない状態にある。

上記の批判にもかかわらず、政府は2002年予算(12月にハンガリー議会は2カ年予算を承認した)において、最低賃金を2001年の4万フォリントから2002年には6万フォリントの水準にまで上げることを決定した。この引き上げに関して政府は、全国労働協議会(National Labor Council)フォーラムにおいて使用者および労働組合の代表と協議しなかった。この政府の提案に対する社会的パートナーの意見は特記に値する。

企業家協会(ハンガリー語の略語はIPOSZ)の会長は、2001年の万フォリントから2002年の6万フォリントへの政府による一方的な最低賃金引き上げプランに驚いている。彼によれば新しい最低賃金の水準は、使用者協会と労働組合を含めた社会的パートナーによって全国労働協議会の三者協議において決められねばならない。また彼は、現在の最低賃金(4万フォリント)水準に対して所得税と社会保険料が引き下げられないのであれば、2001年の最低賃金引き上げは結果的にいくつかの部門ならびに非常に多数の小企業・零細企業の破綻(倒産)を招くであろう、と述べている。2002年に計画された6万フォリントの最低賃金に関連しては会長は次のように指摘している。

2000年の最低賃金2万5500フォリントから2001年に4万フォリントに引き上げれば、インフレ率の上 昇や小規模事業主の財政の悪化を招き、それに伴い失業率も上昇するであろう。

自治労働組合連合(Autonomous Trade Union Confederation)の会長も、政府が2002年に見込んでいるか計画している6万フォリントの最低賃金レベルに驚きを表している。労働組合連合は、使用者協会と同様、政府のこのイニシアチブに関して何も通知されていなかった。彼によれば、労働組合は総じて最低賃金の引き上げを支持しているが、しかしこれほど大幅な引き上げは、以下の事実により重大な賃金の軋轢を生む、としている。現在の平均賃金水準はすでに8万フォリントである。労働組合リーダーらはこの政府計画を実体を伴っていない、と評している。なぜなら政府は最低賃金を上回る賃金を得ている労働者の賃金まで引き上げるつもりはないからである。政府の根本的な最低賃金提案は2002年に予定されている総選挙に向けた政治目的を持ったものである。表1は、最低賃金の発展を示す。

表1 最低賃金の上昇(通貨単位:フォリント)

最低賃金水準
1997年 17,000
1998年 19,500
1999年 22,500
2000年 25,500
2001年 40,000
2002年* 60,000

*政府による提案

前述の批判にもかかわらず、社会的パートナーらは4万フォリントの2001年最低賃金水準を受け入れた。2001年の経済予測に関して政府は楽観的である。例えば政府は、2001年に5ないし7%のGDPの増加を予想している。様々な研究機関および政府が、最近次のような2001年予測を発表した。

表2 2001年の経済予測

  政府 エコスタット(Ecostat) ブダペスト銀行 コーピント・ダドーグ社 金融研究所 経済研究所
GDP 5-6 5-5.5 5,0 5.3 5.1 5,0
国民消費 3.5-4.0 3-4 3.5 4.5 4.1 5,0
投資 10-12 6-7 9.0 8.0 9.0 11.0
輸出 11-13 14-15 15.0 12.8 14.0 12.0
輸入 11-13 13‐14 15.0 12.8 13.8 14.0
年間平均物価上昇率 5-7 8-8.5 8.5 8.0 8.5 8.5
実質賃金上昇 2.5-3.0 2.5‐3.0 3.25 4.5 4.1 4,0
国家財政赤字 3.4 3-3.3 3.2 3.2 3.4 4,0

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