ブッシュ政権の労働長官にエレーン・チャオ氏

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年4月

ブッシュ政権が初めに労働長官候補に選んだ保守派コラムニストのリンダ・チャベス氏は、これまで折に触れ、最低賃金の引き上げやアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)などに強硬な反対意見を述べてきた。そのため、労組は、この指名をなんとか阻止しようとした。その矢先に、チャベス氏に不法移民雇用疑惑が持ち上がり、2001年1月9日、チャベス氏は指名を辞退した。そこで、ブッシュ政権は、改めて労働長官候補に、女性で台湾出身の保守派、エレーン・チャオ氏を指名し、議会でも承認された。

同氏は、ハーバード大学ビジネススクールで経営学修士号(MBA)取得後、アメリカ銀行に勤務した。ブッシュ前政権で運輸副長官を務めた後、前最高経営責任者のスキャンダルに揺れていた慈善団体ユナイテッド・ウェイの立て直しを期待されて、1992年に同団体の最高責任者になり、同団体の規律回復に成功した。その後、チャオ氏は今回の労働長官指 名まで、保守派シンクタンクのヘリテージ財団に所属し、非営利団体を含む数社の取締役を務めていた。8歳で合衆国に来たチャオ氏は、同氏の運輸副長官就任時同様、今回の就任により、アジア系アメリカ人女性として、連邦政府で、これまでの誰よりも高い地位に就くことになる。

チャオ氏が率いていたユナイテッド・ウェイの役員会には、ジョン・スウィーニー現AFL-CIO会長と、労組の中でも積極的な政治活動を展開する全米通信労組(CWA)のバー委員長が、役員として同席していた。チャオ氏は、ブッシュ大統領から指名された朝、スウィーニー AFL-CIO会長に直接電話をかけた。スウィーニー会長は葬儀に参列中で、すぐに連絡がとれなかったものの、チャオ氏が労組に敬意を示したことは明らかである。労組は、チャオ氏が指名されたことを歓迎している。たとえば、バーCWA委員長は、チャオ氏の統率力、行政能力、様々な利害対立を調整する能力を高く評価すると語った。ただし、労組も、チャオ氏が極端な保守派でないにしても、保守派であることを十分に認識している。 同氏の指名を歓迎する産業界も、労組と友好的な関係を保ちながらも、おおむね、市場原理を重視して小さな政府を指向するブッシュ政権の政策を推進するであろうと考えている。

指名に向けた議会証言の中で、チャオ氏は、労働関連の諸問題について労組と話しあうものの、大統領の意向を尊重すると述べた。最低賃金については、大統領は、最低賃金引き上げを支持するが、いくつかの地域では最低賃金の引き上げを行わないことも検討すべきであるとした。証言の中で、同氏は「今日の合衆国には、適切な応募者が見当たらない、 何万あるいは何10万人もの労働需要がある。同時に、何100万人もの米国人労働者は、それらの職に就く能力や資格を持ち合わせていない」と述べ、国境を越えた経済・企業間競争と技術進歩の中で、職業訓練の充実を最も重要な課題とした。そして、労組、さらには労働省も、新たな経済環境に対応する必要があると語り、これまでの諸政策を見直す意欲を示した。

共和党政権下のNLRBの委員構成

労組は、大統領選挙で、前例のない多額の選挙資金を費やして民主党ゴア候補を支持した。しかし、大統領、下院過半数を共和党に奪われ、上院でも議員数が50対50で伯仲するという、ここ40年以上経験したことがない結果に終わってしまった。この結果、新政権は、間もなく労働行政に共和党色を出し始めるのではないかという観測が生まれている。 ここでは、全国労働関係局(NLRB)の委員構成に注目してみることにする。

ブッシュ政権は、2002年の中頃までにNLRBのページ事務総長、および5人の委員のうち4人の後任を上院の承認を経て任命するという、稀な機会を得ることになる。NLRB事務総長は、労働組合が派遣労働者を組織化する権利に関するルールなど、どの案件をNLRBの委員会で審議するかを決定する権限を持つため、労使関係に大きな影響力を持つ。最近では、何年間も全米自動車労組(UAW)の弁護士として中心的な役割を果たしていたページ事務総長の任期中に、NLRBは、産業界が労組寄りと批判する、多くの決定を下した。

たとえば、NLRBは、2000年11月に、私立大学で教育助手として働く大学院生に団結権と団体交渉権を認めた裁定を下した。現在、当事者のニューヨーク大学は、学生組合との交渉拒否を明らかにしている。学生組合が加盟を希望しているUAWは、同大学を相手に、 不当労働行為でNLRBに申し立てをする意向を持っている。しかし、今後、ブッシュ大統領が任命する共和党員がNLRBの委員会の過半数を占めるようになると、以前のNLRBの裁定が覆されるか、裁定を執行しない公算が大である。

産業界は、共和党員主導のNLRBが、上記のような、これまでの裁定を覆すことを期待 する。一方、AFL-CIOのジョン・ハイアット弁護士など、労組は、NLRBの今後の方針転換 を懸念している。ウィリアム・グールド前NLRB議長は、以前の共和党員主導のNLRBが産業界寄りであったことを指摘し、ブッシュ政権のもとで、NLRBが産業界寄りになることは確かだと語っている。

2001年4月 アメリカの記事一覧

関連情報