訓練された労働力の海外流失

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年3月

技術を持たない労働者はもとより、訓練された技能労働者にも希望する給与が得られる就職が困難になっているために、外国に就職先を求める若者が増加している。しかし、移民で構成された国家にふさわしく、国民はこの逆移民とも言える流失状況を生活向上の手段として受入れており、別に深刻には考えていない。

ミナス連邦大学地域企画開発センターのアルベルト・カルバーリョ教授が行った研究では、1986年から91年にかけて127万9991人が外国に職を求めて移住した。1991~96年にもこの傾向は続いて107万5066人が移住しており、教授は「世界の移住者受入れ国だったブラジルが、技能労働力の輸出国になった」と表現した。

移住者の大部分は、国内で最も開発された南部、南東部から流出しており、国民の平均的社会経済水準以上の階層の若者が中心となっている。というのは、外国へ旅行するための旅券取得と航空券購入経費は、一般のブラジル人にとっては非常に高価であり、国民の大部分は支払える能力がない。子供を十分に教育できる家庭に育ち、奨学資金を受けて外国に留学した学生たちがブラジルに戻らなかったりするケースなどは、ブラジルに自分の人生を賭けるチャンスが少ないと若者たちが感じていることを物語るものである。

欧州系移住者が多いブラジルでは、欧州に関する情報が大量に出回っている。たとえば欧州の人口増加率低下によって将来の欧州には労働力が不足するとの予測が流されているために、自分の将来を労働力が不足する欧州に見出そうとする若者は少なくない。若者たちの間では、移住してきた祖父や父の母国で働くことに何の抵抗もないし、家族も反対しない傾向にある。

同教授は、ブラジル政府が平均以上の高等教育を受けた若者が多数流失していることに十分注意を払っていないことを、若者の流失原因として指摘した。すなわち、ブラジルでは今のところ若者の外国移住を国家の重大問題として取り上げることはなく、せいぜい外国で働く国民が母国に年間どれだけの送金を行っているか、その金額が輸出収入に比べて何%に相当するかといったような比較論が時々報じられる程度である。

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