労働安全局、史上初の人間工学基準を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

労働省の労働安全衛生局(OSHA)が、全国規模では史上初となる、人間工学(注・人体に、疲労、酷使、摩耗による傷害が起きないように仕事や機械などを設計する学問)基準を公表した。同基準は、2001年1月16日に施行され、産業界は同年10月までには基準に適合していなければならない。人間工学基準は、労働者が同じ作業を繰り返すことで身体を傷める反復運動損傷(RSI)を軽減・予防することを目的とする。同基準の作成は、ブッシュ政権時の1989年から始められていたが、公式な形で初めて試案が公表されたのは1999年末であった。この試案についてOSHAは各方面から意見を聞き、公聴会等で、費用がかかりすぎるとする産業界および共和党議員から強い反発を受けてきた(本誌2000年2月号参照)。2000年11月13日に公表された最終的な人間工学基準についても、産業界は、以前の試案よりも煩雑な対策が必要となるとし、法廷闘争をする構えである。しかし、クリントン政権は人間工学基準をすでに官報に載せていることから、同基準を覆すためには、長い時間をかけた行政上の手続きを経ることが必要となる。同基準を守るために必要な追加的費用について、製造業使用者団体は毎年180億ドル(1ドル=116.7円)、雇用政策財団は同1256億ドルと見積もっているのに対し、OSHA は同48億ドルと推計している。

同基準が適用される約600万カ所の事業所の中には、人間工学基準に関連した傷害とその予防について、労働者に情報提供するだけでよい事業所もある。しかし、もしも労働者が腰痛などの筋骨格傷害(MSD)を起こしたと報告した場合には、使用者が、傷害と仕事との間に因果関係があるかどうか調査しなければならない。そのうえで、仕事が傷害の原因とされた場合、労働者は、医療休暇と有給休暇を得る権利がある。この時、使用者は、同種の仕事に従事している他の労働者も危険にさらされていないか広く調査し、労働者やその上司に、RSIへの対応や予防についての訓練を施すなどの対策を取らなければならない。

使用者は、危険な仕事をしているとみなされる労働者に、無料で医師や医療専門職の治療を受けさせ、休みを与えたり、軽い仕事をさせるなど医療上の提案を受け入れる義務がある。このように、無料で治療を受けさせることが義務とされた点で、労働者保護が強化された。使用者は、RSIの結果、従来よりも負荷の少ない仕事をこなすことになった労働者に対し、従来と同じ水準の賃金や手当を支払う義務がある。また同基準の対象となる傷害について、筋肉、骨、神経などのみならず、血管の傷害も含まれることになった。

一方、最終的に産業界の意向を受けて、最終的に規制を緩やかにした面もある。例えば、RSI のために働くことができない労働者に対し、元の仕事に従事できるほど回復するまで、90%の給与と100%の給付の支払いを最長6カ月間、使用者に義務づけていたが、今回、これらの支払期間は最長90日間に短縮された。また、既往症が仕事中に悪化した場合、同基準が適用されるのは、症状が「顕著に」悪化した場合にかぎられると明記し、労働者が私生活で負ったRSIに対する使用者の責任を限定した。さらに、試案が不明瞭であるという産業界の批判に応え、どのような動作を伴う場合に労働者が危険な仕事をしているとみなされるのか、詳細に記述している。例えば、コンピュータのマウスやキーボードを1日に計4時間以上、間断なく使う場合などである。このような場合には、使用者は危険な動作を軽減する措置を講じる必要がある。

労働組合は、新基準を歓迎している。しかし、長年の産業界からの反対によって、最終的な基準は、かなり控え目なものになったと AFL-CIO(米労働総同盟・産業別労働組合会議)のペグ・セミナリオ厚生・安全部長は語る。同氏によると、例えば、建設業、漁業、農業労働者に新基準が適用されない点、そして、その他の産業での使用者の責任が、傷害があったとの労働者の報告後に生じ、その後の調査でようやく機器の欠陥や訓練の不備がわかるという点になお不満が残るとしている。

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