労働安全局、人間工学新基準を提案

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

クリントン政権は、1999年11月22日、反復運動損傷(RSI)に関する包括的な人間工学(エルゴノミクス)的基準を公表した。この提案は、予定よ何年も遅れて発表されたが、産業界はその内容について「曖昧で科学的な裏付けが無い、政治的に得点稼ぎを狙ったもの」と憤慨している。

この基準のもとでは、反復運動損傷を報告した労働者を持つ使用者は、作業台の高さを調節するなど、その労働者が働いている部分の労働環境を改善しなければならない。この場合、使用者には、傷害が起きた労働者の仕事量を制限することが義務づけられ、軽い作業に従事している間、全額の給料及び給付を支給しなければならない。また、手で物を上げる作業をする労働者がいる全ての企業は、反復運動損傷を未然に防ぐための教育プログラムを用意しなければならない。

同提案の対象となる職種は、多岐にわたり、トラック運転手、倉庫業者、事務員、ある種のハイテク労働者などが含まれ、新たに約190万の事業所が人間工学的基準を達成するために安全衛生プログラムを整えなければならないことになる。同基準の履行を担当する労働省の労働安全衛生局(OSHA)によると、改善が必要な職場の各労働者の作業場所について年間約150ドル(1ドル=104.9円)の支出増が見込まれ、全国の使用者全体では年間約42億ドルの経費増となる。しかし、産業界は現実の費用はその数倍に上ると主張している。

OSHAによれば毎年約180万人の米国労働者が職場で反復運動過多が原因で筋骨格(musculoskeletal)傷害を起こし、そのうちの約3分の1の労働者が欠勤しなければならないほど重い障害になっている。その上、男性に比べ女性労働者が傷害を持つ可能性が高く、仕事を休むことを認められた手根幹症候群(注:手指の痛みを症状とする)の70%が、また腱炎の62%が女性労働者に起きている。

全国製造業協会で人事政策を担当しているパット・クリアリー氏によると、同協会会員が最も怒っているのは、反復運動損傷により労働者が働けなくなった場合には最長6カ月間、傷害が治癒するまで90%の給与と100%の給付を使用者に義務づけたことである。現在でも、就業中に怪我をした労働者は通常、逸失賃金の60%を労働者災害補償として受け取る権利を持っている。同氏によれば、OSHAの新基準は反復運動損傷に対して特別の扱いをし、通常の怪我に比べて多額の補償を課している。この他に批判が集まっているのは、仕事が原因で起きた傷害に労災が適用されるのに比べ、OSHA新基準は仕事によって悪化した反復運動損傷の症状についても使用者の責任であるとする点にある。使用者は、自宅のコンピュータを長時間使用して疲れた労働者についても責任を負わされるのはおかしいというのである。その一方で、労組、ことに反復運動損傷をおこしやすい産業の労組は新基準を歓迎している。

OSHAによれば、2000年2月1日まで広く意見を受けつけた後、新基準についての公聴会を2000年2月22日に開催する。OSHAは最終的な基準を2000年中に公表し、60日間から3年間の準備期間を規定ごとに設定して段階的に施行する予定である。

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