非公式就労が一般化
フランシスコ・ドルネーレス労相は、2000年中には正式雇用が100万人増加し、非公式就労を加えると200万人分の新規雇用増になるとの予想を発表したが、公式見解で新規雇用の半分以上が非公式雇用となっていることと同様に、実際にも全国の就労者の半数以上が非公式就労となっており、労働法と社会保障法に違反しているにもかかわらず、いまや非合法での就労は、取り締まり不可能な一般的な状態となった。
政府の正式資料には非公式就労はデータとしては記録されず、実態は把握できない。非公式就労者は、所得税、社会保障制度分担金、労働組合費などを支払わず、労組にも所属しないために、政府としては税収の減少、労組にとっても財政、組織力両面でマイナスとなっている。その代わり法令で保障された保護を受けられず、非公式就労は、国民を2種類の労働者に分ける形となっている。
政府に所属するゼツリオ・バルガス財団の社会政策センターから2000年10月に発表された研究によると、現在、国内の就労者6900万人のうちの60%に当たる4100万人が非公式就労者となっている。すでに労働市場に非公式就労は定着しており、国民からも、正式雇用のチャンスをつかむことが非常に難しい現状では、生存のための収入を得るためにやむをえない必要悪だとして、当然のように受け入れられている。
非公式就労は、正式の就労登録をしない給料生活者と街頭の物売りのような自営を主体とする自由業からなっており、アジア経済危機の発生後、企業が厳しい合理化を実施して以来、急速に増加した。
同研究報告は、失業者は、仕事をしなくても職を探しており、公的保護を受けられるが、職を探す時間もなく、とにかく収入確保に追われている非公式就労者は、失業者より貧困度が進んでいると分析している。
この研究によると国内の貧困層に分類される4600万人のうち51%は、非公式就労者が家長となっており、この就労者にとっては、収入が得られない職探しなどできない状況に置かれている。国内の失業者は1996年から99年にかけて年平均12%ずつ増加していながら、同期間に給料生活者のトップクラス階層は年間16%ずつ増加し、一部のトップクラスへ所得が集中する形となっている(この調査では、トップクラスとしているだけで所得を数字で表わしていない)。
また、大都市ほど大量失業者が出ているが、これは大都市ほど大企業が集中しており、大企業ほど合理化を進めた結果である。そのためマスコミも政府も、失業や非公式就労問題は、大都市に集中した問題のように考えているが、この調査結果によると人口20万人以下の都市では、注意を引くこともなく、驚くべき増加を見ていることが判明した。これらの都市の就労者は、平均70%が非公式となっている。
この研究では、失業保護を受けて職を探す失業者の時期と、この時期を過ぎて家計が悪化し非公式就労に陥った場合を分け、後者の場合を失業より一段と悪化した状況と考えている。その理由として、失業者なら、労組や政治家が公的機関に圧力をかけて社会政策を適用させる可能性があり、法的にも失業者保護はかなり整備されている。
しかし、非公式就労に陥ると、労働者本人の不遇はいうまでもないが、就労者の約40%しか税金や社会保障分担金を支払わない状態となって、政府財政は悪化するばかりである。残る60%の人たちが納税しなくても、政府は憲法によって国民に衛生、社会支援、生活扶助などを提供する義務を負っており、その負担は、公式市場の就労者と公式市場の企業にかかってくる。
年々非公式化が進む現状を逆転させることが可能かどうかについては、大部分のエコノミストたちは、企業と労働者の労使契約を政府が財源の一種にしている現状を改善するよう提案する。正式雇用にすると従業員に支払う給料と同額以上の経費がかかる現行法が、非公式就労を増大させる最大の原因になっているからである。日々競争が激しくなり、合理化に追われている中小企業が、正式雇用を避ける傾向を強めても仕方ないことである。
政府自体がこれを認めて法令改革を検討しているが、労働法のいかなる改正も労働者の既得権を奪う工作であると主張する労働党と中央労組が、イデオロギーの上から対立して改正を阻止しており、是正させることは非常に困難となっている。
増加目立つ非公式雇用
ブラジル地理統計資料院が10月に発表した6大首都圏の工業雇用調査によると、1990年に工業雇用の82%を占めていた正式雇用が、2000年1~8月には平均64%に低下し、その反面で90年に10%だった非公式雇用が、2000年は20%に倍増している。自営名目の工業雇用も同期間に4%から10%へ増加している。これは、正式雇用による経費負担を回避する下請が増加していることを証明している。
また、全国で最も正式雇用が多いサンパウロ首都圏の、その中でも最も正式雇用が多い工業を見ると、1990年の正式雇用84%が2000年には65%となり、非公式雇用は9%から22%へ、自営は2%から8%へと増加して、6大首都圏の平均よりも非公式雇用の増加が大きくなっている。
労働雇用省は、非公式雇用の増加を抑制しようと、労働監督局を通じて企業を訪問し、正式雇用への転向を薦め、2000年1~8月に33万3000人の就労を正式化したと発表した。
中央労組CUTのエコノミストは、ブラジル地理統計資料院の世帯抽出見本調査を分析し、1989~98年の10年間に全国の正式雇用は250万人減少し、非公式雇用は340万人増加、自営は280万人増加したと発表した。自営はすべてが非公式労働ではないが、正式登録は非常に少ないと資料院自体が認めている。非公式雇用は、所得と労働条件の悪化を伴っている。
2001年1月 ブラジルの記事一覧
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