温情主義に落とし穴

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年12月

企業は、実績が上がっているときは、ボーナスをはずむ。不況のときは、これをしぼる。日本ではしごく当然のことをやって損害をこうむった日系企業がある。

会社は、好景気のときに法律で定められた年1度のボーナス13カ月目賃金の外に、2年連続して自発的にボーナスを支給したが、次の年は、会社が赤字に転じたので13カ月以上のボーナス支給を停止した。

ところが、労働組合は、労働裁判所に例年通りボーナスを支給するよう訴えた。

会社は弁護士に相談したが、弁護士は、会社が敗訴する見込みが大きいから組合と和解することを勧めた。理由は、慣行となった賃金以外の報酬はそのまま労働者に対する賃金の一部と認められ、これを一方的に廃止することは認められないこと、会社が2年間継続して自発的に支払ったボーナスは、慣行として認められる公算が大きいということであった。

自発的ボーナスが賃金の一部として認められ、しかも法定の退職金基金である勤続期間退職保証基金(FGTS)、社会保険負担金等は、このボーナスを含めた額に課せられるから、その額は莫大なものになる。

上記の規定は、判例法として確立していたものであって、企業が賃金に課せられる社会保険負担、FGTS、所得税負担を回避するため、賃金以外の名目で労働者の報酬を支払うことを禁止する目的で設けられたものであるが、これが労働者の「利益参加」を阻んできたことも事実である。

一方、労働法はその第621条において、「労使は労働協約(労使の団体の間で結ばれた労働条件の合意)または労働協定(労働団体と個別企業の間に結ばれた労働条件についての合意)の中に、事業計画において利益参加につき相談および協力を行う混合委員会の設立と機能について定める規定を含めることができる」とも定めている。しかし、この条項は単に可能性として止まり、長い間ほとんど空文に帰していた。

しかし、1988年憲法はその第7条 XI 項において、労働者の権利として「法律に従い利益または実績に対する参加、および例外的に企業の経営に対する参加」を定めた。これを受けて、政府は憲法の規定を実施する法律を制定するため、労働者の企業利益または実績参加に関する暫定措置を国会に提出した。

この暫定措置は、旧憲法の大統領令に代わるものとして1988年に憲法に規定されたもので、緊急の必要がある時は国会への政府の提出と同時に発効し、30日以内に否決されるまで法律と同じ効力を有する。可決されれば法律となる。旧日本憲法の緊急勅令に類似の法令である。行政府は、これが否決されるまで何度でも立法府に提出することができる。労働者の企業利益参加に関する暫定措置は、今日に至るまで立法府に提出され続け、事実上法律と同じ効力を有している。

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