テレコム産業ベライゾン社で約9万人がスト

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年11月

地域電話会社ベライゾン・コミュニケーションズ社の労組は、現行労働協約の終了後、待遇改善の他、携帯電話を扱う同社の子会社であるベライゾン・ワイヤレス社で働く従業員を組織化する権利などについて交渉を続けてきたが、同社と折り合いがつかず2000年8月6日にストに入った。労働組合員は、スト期間中にピケを張り、職場放棄を行ったが、大部分の電話回線がすでに自動化されているため電話回線への影響はほとんどなかった。しかし、故障への対応が遅れ、電話番号案内の待ち時間が長くなるなどの影響が出ていた。18日間続いたストは、労使の暫定協約合意を受けて8月23日に終結した。

興味深いことに、ストは会社側にも便益をもたらした。会社側はストライキ中の労働者の賃金支払いを免れたことにより推定で1億5000万ドル(1ドル=107.75円)節約でき、各報道機関がスト報道の中で、ベライゾン・コミュニケーションズの社名を正確な発音で繰り返し、新たな社名を多くの消費者に印象づけることに成功した。マスコミや研究者は、これを別の面から見ると、ストが長引いた場合に新社名に傷がつくことを恐れる経営陣に対し、絶妙のタイミングでストをしかけることにより、協約交渉を有利に運んだ労組の思惑通りという評価をしている。

同社の前身のベル・アトランティック社では、労組がベル・アトランティック社の新事業部門で働く従業員を組織化する権利を要求して、1998年にも2日間のストが行われたことがある。各地域電話会社の労働組合員の多くは、デジタル通信技術の進歩により、これまで扱ってきた技術が急速に時代遅れになりつつあると感じており、今後、他の地域電話会社でも、労組が有望な成長部門で働く従業員の組織化を要求する可能性が高い。

今回のストを行ったのは3労組で、全米通信労働組合(CWA)のニューイングランド諸州およびニューヨーク州の交渉単位に属する3万7000人(以下、本稿では北CWAと呼ぶ。ベル・アトランティック社が買収したナイネックス社の元従業員)、CWAの中部大西洋沿岸諸州の交渉単位に属する3万5000人(以下、南CWAと呼ぶ。ベル・アトランティック社の元従業員)、そして国際電気工友愛組合(IBEW)の1万5000人である。これらの労組は2000年6月26日以来、協約交渉をベル・アトランティック社と進めてきたが、同社がGTE社と合併してベライゾン・コミュニケーションズ社となったため、引き続きベライゾン・コミュニケーションズ社と交渉を続けていた。

ワイヤレス産業はニュー・エコノミーへの橋頭堡

スト終結に至った暫定3カ年協約の内容は、労組側の要求のほとんどすべてを満たすもので、向こう3年間で、12%の賃上げ、14%の年金給付増額、そして各従業員に100単位のストック・オプションを2000年末までに、一度だけ与えることなどを定めている。またCWAは、同社と英ボーダフォン・エアタッチ社の共同の子会社であるベライゾン・ワイヤレス社全従業員の20%までを通常よりも容易に組織化する権利(注1)を得たほか、ベライゾン・コミュニケーションズ社が組織化の過程で中立を保つという確約を得た。これらは、労組側が重要視していた権利で、成長が期待されるベライゾン・ワイヤレス社を組織化することによって、ベライゾン・コミュニケーションズ社の労働組合員が将来ベライゾン・ワイヤレス社に移ることを容易にする狙いがある。なお、この子会社の3万2000人の従業員のうち50人未満が労組に加入している。

労組がこのような要求を実現したことについて、労使関係が専門のマサチューセッツ大学アマースト校のトム・ジュラビッチ教授は、これまで労組がしばしば行ったように、生産性の低い事業での雇用を守ることに固執せず、CWAが新技術の事業において労組が足場を確保するために、長期的かつ革新的な戦略を取ったと高く評価している。多くの専門家も、労組が新たな経済(ニュー・エコノミー)で主役となる労働者を組織化する能力があるかどうかを占うには、市場の拡大と労組の浸透の遅れが目立つワイヤレス産業での組織化に成功するかどうかが非常に参考になると考えている。

また労組は、顧客サービスセンター従業員に対し、成績に応じた報酬を導入することを初めて受け入れた。これは、組合員に実績や職務遂行能力に応じた報酬を与えることを認めさせたという点で画期的である。これまで多くの労組は、先任権に基づいた給与体系にこだわり、優秀な労働者が労組を離れる一因となっていた。

配置転換にあたり、他の地域に異動させられる従業員数の上限が、その地域の労働組合員総数の0.7%までに制限されることになり、雇用保障が強化された。さらに、これまで同社が非組合員を使うことが多かった、DSL(注2)を設置する仕事が、これまで以上に労働組合員に割り当てられることになった。

テレコム産業における残業時間とストレス

テレコム産業の特殊事情を反映した事項も、暫定協約に盛り込まれた。北CWAと IBEW は、南CWAも暫定協約合意に達しつつあると考え、南CWAよりも早く暫定協約を締結し、15日間でストを終えた。これに対し、南CWAは18日間ストを行い、現在、週10時間(年7カ月)ないし15時間(1年の残りの期間)となっているコールセンターで電話の受け答えをする顧客サービス係の「強制的な残業時間(forced overtime)」の上限を週8時間とすることに成功した。技術者やオペレーターについても同様の上限が設定された。テレコム産業では、各社が従業員の残業時間を増減させることによって費用削減を図っている。そのため残業時間が増え、残業時間短縮が労組の重要な要求事項になりつつある。中でもATT社分割後の多くの地域電話会社は、1980年代後半から90年代前半にかけて人員削減を進めたため、インターネット・ブームの今、電話回線増設や新たなサービスへの需要が一気に高まることが多い。したがって他の地域電話会社の労働組合員にとっても、今回の暫定協約が参考になると考えられる。

CWAは、テレコム産業従業員の多くが職場でのストレスに悩んでいることを克服すべき大きな課題としている。例えばコールセンターで働く従業員は、通話と通話との間に休む暇もなく、しばしば機嫌の悪い顧客と話をし、定められた通りの売り込みを続けなければならない。CWAは、ベライゾン・コミュニケーションズ社から、顧客サービス係の従業員が、消費者からの注文や要求を処理する各シフトごとに30分間電話から離れて休憩を取る権利を得た。

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