黒人諸団体がH-1Bビザ枠拡大反対でロビー活動

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年10月

民主・共和両党がそれぞれ独自に国会に提出している、高技能外国人向け一時的労働ビザ枠(H-1Bビザ)を約2倍に拡大する法案に対し、黒人エンジニア、科学者、コンピュータ技術者が各種の反対活動を行っている。H-1Bビザ枠拡大は、インドや中国などの諸国から米国へのハイテク労働者流入を進め、ハイテク産業における人手不足解消を主な目的にしている。現在、H-1Bビザの発行枚数は、毎年11万5000人となっている。

多くの黒人専門職労働者を代表するシリコンバレー公正雇用連合は、ワシントン特別区のロール・コール紙に全面広告を出し、現在のハイテク産業での労働需要よりも多くのアメリカ人熟練労働者がおり、その多くがアフリカ系アメリカ人であると表明した。

公正雇用連合は、H-1Bビザ枠拡大に反対する政治的働きかけも行っている。公正雇用連合の主張によれば、H-1Bビザ枠拡大は、アメリカ人から職を奪い、賃金水準を下げている。ハイテク産業での黒人労働者雇用が進まない背景には、ハイテク産業や政府資金を受けている研究所が、黒人専門職が多く参加する会議や歴史的に多くの黒人卒業生を出している大学で稀にしか採用活動を行っていないという事実があるとも主張している。また、技能の陳腐化の速度が速まり、黒人専門職だけではなく、若くない電気関係のエンジニアたちも仕事を見つけることができず、毎年のH-1Bビザ枠の縮小を目指す移民改革連合に加盟する者も多い。

公正雇用連合が、ロビー活動でH-1Bビザ枠拡大法案を完全に葬り去る可能性は低い。しかし、他の黒人諸団体も政治家に働きかけており、H-1Bビザ枠拡大法案と同時に、アフリカ系アメリカ人の採用や職業訓練をハイテク企業に義務づける厳しい規則が定められたり、H-1Bビザを持つ労働者を受け入れる企業が支払うビザ申請料をビザ1枚当たり500ドルから3000ドルに引き上げ、その50%をアメリカ人労働者の職業訓練、30%を低所得学生の科学教育費にあてるなどの方策が作られる可能性が高くなっている。

これらの動きに対し、産業界は、アメリカ人を雇いたいが、科学技術に関する知識のあるアメリカ人の数は多くなく、なかでも黒人などのマイノリティーでそのような能力を持つ人は比較的少ないとしている。また、アメリカ・エレクトロニクス協会は、ハイテク関連のアメリカ人学生が減少していることを指摘する。1997年のハイテク関連の学位取得者は20万7056人にとどまり、1990年以来2%減少した。エンジニアリング、数学、コンピュータ専攻のマイノリティーの学生数は、1990年代に増加したが、総数としては、比較的少ない人数に留まっている。

しかし、労働省が昨年、シリコンバレー公正雇用連合の申し立てをうけてシリコンバレーのハイテク企業の採用活動について調査を行ったところ、調査対象の85社のうち13社でマイノリティーや女性に対する差別があり、他の24社では連邦政府との契約締結の条件とされるマイノリティーの採用計画がなかった。雇用機会均等委員会(EEOC)も現在、シリコンバレーにおける人事管理について調査している。EEOCのポール・イガサキ副委員長によると、シリコンバレー諸企業が、均等な雇用機会を提供しているかどうかについて多くの議論がなされており、マイノリティー、女性、年長労働者を十分に活用していないのではないかと懸念されている。

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