諸手当経費上昇が続く中、景気減速の兆し

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

4月、歴史的低失業率3.9%

2000年4月の失業率は3.9%となり、1970年1月以来30年ぶりに4%未満になった。ただし、1970年にはベトナム戦争で多くの労働者が軍人になっていたという特殊事情があり、平和時に4%未満の低失業率を記録したのは1957年以来となる。2000年4月には、成人女性の失業率が3.5%、1993年1月には14.1%あった黒人の失業率が7.2%(政府が統計をとり始めた1970年以来、最低水準)、1年前には6.8%あった高校を卒業していない人々の失業率は6.1%となり、これまでの景気拡大時に恩恵が及ばないことが多かった階層の失業率も下がっている。

2000年4月には国勢調査局が国勢調査のために7万3000人を雇ったため、一時的に雇用が拡大した。しかし、それを除いても、民間部門では同年4月まで1カ月平均22万2000人の雇用が創出され、1999年の同19万8000人を上回っている。ホワイトハウスのエコノミスト、マーティン・ベーリー氏によれば、雇用形態の弾力化が進み、労働者が新たな技能を獲得したことから、実際に雇用することができる労働者プールが拡大した。また、労働生産性の上昇のおかげで、企業が製品価格を上げずにすんでいる。実際、最近の政府報告によると、2000年初頭に上昇し始めた物価は、再び安定化している。

2000年4月の平均賃金は1時間13.64ドルで、過去1年で3.8%上昇した。これはその前の1年間の3.5%上昇よりも高いが、1997年4月から1998年4月までの4.4%上昇よりは低い数字であった。しかし、今後も労働生産性の上昇が続き、インフレなき経済成長が続くだろうと考えるエコノミストは多くない。ただし、労働省が2000年6月6日に発表した2000年第1四半期の単位労働費用(注:1単位の生産を行うための労働費用で、報酬を生産高で除したもの)上昇率は、年率換算で1.6%という低い水準にとどまった。単位労働費用がここまで低ければ、インフレを加速させる可能性は低いと考えられている。また、6月2日に同省が発表した5月の賃金上昇率は0.1%で、4月の0.4%を下回った。

各企業は、賃金を上げずに有能な労働者を確保するため、様々な方法を試みている。例えば、コンピュータ製造のゲートウェイ社では、従業員にコンピュータや、ペット医療保険、企業収益にすぐに影響を与えないストック・オプションを与えている。2.1%という低失業率のテキサス州オースティンのインターネット関連商品製造の会社ネットプライアンス社では、遠隔地の労働者を雇ってテレコミュート(自宅など会社以外の場所で働き、会社とは主に情報技術を用いて作業や連絡を交わす)することを認め、近隣の労働市場の高い賃金水準をさらに押し上げないようにしている。

諸手当経費の上昇傾向続く

インフレを引き起こす重要な要因である諸手当経費に、市場関係者は注目している。過去2、3年間、諸手当経費は安定していた。例えば、各企業がHMOなどの管理医療を利用することにより、医療費は抑えられ、1990年代半ばには医療費が低下したことさえあった。さらに多くの企業が、ボーナスや諸手当の代わりに、会社の出費につながらないストック・オプションを社員に与え、諸手当経費の抑制を行った。

しかし、ここ2、3カ月でほとんどすべての事情が変わってしまった。管理医療による医療費切りつめの大部分は、すでに実現し尽くし、大手保険会社は保険料を上げ始めた。その上、2000年になって株価が低下したり、不安定な動きをするようになったため、労働者はストック・オプションよりも現金でのボーナス支払いや給与の増額を求めるようになった。IT 関連業界でも、「利潤は上がっていなくても売上が増えればよい」という楽観的な見方が株式市場からなくなり、株価下落・業績不振で雇用削減に追いこまれた企業は、今後の採用にも慎重にならざるをえない。

労働省によれば、2000年第1四半期の民間部門の諸手当経費の上昇は2.0%で、1999年第4四半期の1.2%、99年第3四半期の0.8%を大きく上回った。1年ごとの変化を見ると、1998年3月から99年3月までは諸手当経費は2.3%の上昇、99年3月から2000年3月までには5.0%の上昇となっており、諸手当経費の増加傾向が明確になっている。諸手当経費がこのまま増えれば、企業が製品価格を上げる必要があるので、利上げの機会をうかがう連邦準備制度理事会(FRB)は今後の動向を注目している。

5月、景気減速の兆し

民間部門の雇用者数は、2000年4月に29万6000人増加したが、5月に11万600人減少した。このような大幅な減少は、ここ4年間経験したことがない。非軍人雇用者数は、4月の1億3571万人から、5月には1億3472万人へと、1カ月に99万1000人減少した。この減少は、労働省が統計を取り始めてから、1カ月の雇用減の最悪の数字の1つである。5月の失業率は4.1%となり、特に女性、黒人、学歴の低い労働者が、すでに労働市場縮小の悪影響を受け始めている。例えば、黒人の失業率は1カ月で0.8%上がって8.0%、女性の失業率は0.3%上がって3.8%となった。

もちろん1カ月の数字だけから今後の動向を占うわけにはいかないが、雇用統計以外にも、景気の減速を暗示する統計が次々と公表されている。6月14日に発表された5月の消費者物価指数は前月比0.1%上昇で、市場関係者が予測していた0.2%を下回り、4月の製造業の新規受注額は9年半ぶりの大幅な減少、5月の小売り売上高は前月比0.3%減で、1年9カ月ぶりの2カ月連続減となった。

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