労組の抵抗及ばず、中国に恒久的最恵国待遇付与へ

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

下院は2000年5月24日の本会議で、中国に対する最恵国待遇(MFN)について、毎年更新する方式から恒久的に付与する方式に改める法案を賛成237(共和党164、民主党73)、反対197で可決した。上院も6月以降に可決する見通しで、大統領の署名を受けて、米国は他国に適用している低率関税などの条件を中国にも恒久的に認めることになる。クリントン政権は、中国との貿易・直接投資を求める産業界や共和党指導部と連携し、反対派の労働組合・民主党の一部を相手に議会工作を続け、中国がWTOに加われば、貿易や投資の拡大を通じて中国の経済改革などが正しい方向に進むと主張していた。2000年5月15日には、中国のWTO加盟について中国、EU双方が同意したため中国のWTO加盟は手続き上可能だったが、米国の恒久的MFN付与でWTO加盟への最後の障害が取り除かれたことになる。

また、毎年の最恵国待遇更新が、中国の核技術スパイ疑惑や人権問題などを牽制する役割を果たしていたと考える議員の同意を取り付けるため、中国の人権問題や労働基準を監視し、問題があれば制裁を勧告する23人から成る特別委員会の設置、中国からの輸入が急増した場合の制限措置を取ることを定めた。

労組は、中国製品の流入や生産拠点の中国への移動などによって米国労働者が職を失うと、同法案成立阻止を最重要課題の1つに掲げていた。アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)のスウィーニー会長は、中国国内で人権や労働者の権利の状況が改善している証拠はなく、MFNの恒久化に良い理由は全くないと述べ、下院議員に説得を続けていた。この目的のためにAFL-CIOは、200万ドル(1ドル=108.9円)近くをテレビ・新聞・ラジオ広告に費やした。全米自動車労組(UAW)、チームスターズ労組とともに目立った反対運動を展開したのは全米鉄鋼労組(USWA)で、USWAが下院議員に送った恒久的MFN付与反対の手紙だけでも25万通に上る。4月12日には何千人もの組合員が下院のホールに集まり、特定の下院議員に対しロビー活動を繰り広げるなど、労組は稀に見るほどの活発な抵抗を見せた。

しかし、採決前夜には、民主党議員の多くが法案支持にまわることが明らかになり、全米自動車労組(UAW)のヨーキチ会長は書面で、ゴア氏のように多額の資金の言いなりになることなく、正しいことを実行しようとするラルフ・ネーダー氏(注・緑の党の大統領候補。消費者運動の活動家で、過去に自動車業界を厳しく批判してきた。クリントン政権が結んだ貿易協定も長い間批判)のような候補者を支持すべきで、民主・共和両党以外の候補者を積極的に検討するほかないと述べた。大統領選で、どの候補を支持するかまだ明らかにしていないチームスターズ労組も、第三政党の大統領候補も選択肢として残しておく方針を表明し、同労組スポークスマンは、ゴア氏が「近い将来、我々の支持表明を受ける可能性は低い」と述べている。

法案可決後、AFL-CIOのスウィーニー会長は、大統領が共和党下院議員と手を組んで法案を成立させ、中国のMFN恒久化で歴史に名を残すことは嘆かわしいと述べた。また、複数の労組指導者は、法案に賛成票を投じた議員は2000年11月の選挙で代価を支払うことになろうと警告した。彼らによると、最も強い向かい風を受けることになる候補者は、強固な労組組織がある選挙区の候補で、例えば、北部オハイオ州の第14選挙区では、チームスターズ労組が、今回の法案に賛成した民主党トーマス・C. ソーヤー議員を支持するかどうか検討しており、同労組は共和党候補にインタビューしたうえで誰を支持するか考えることにしている。もっとも労組指導者の中には、労組には結局、民主党以外に選択肢がないという個人的な見解を示す者もいる。しかし、AFL-CIOのローゼンタール政治部長によれば、下院議員選挙区における労組の集票力は平均3万5000票(最高9万、最低7000)あり、特に接近した選挙戦では労組票が明暗をわけることになる。

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