最低賃金引き上げと減税に関する動き

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

最低賃金の引き上げと減税とを併せて行うことを定めた法案が、2000年2月2日に上院で、3月9日に下院で、それぞれ可決された。クリントン大統領は、下院での法案可決を前にした3月8日、最低賃金の引き上げを減税と切り離して単独で可決するよう議会に要請し、最低賃金の引き上げが労働者や経済にとって好ましいとする報告書を提出した。報告書によれば、最低賃金の引き上げは、非労働力人口の労働力化を促し、福祉対象者の減少に貢献する。また1ドルの最低賃金引き上げは、1980年代の最低賃金(3.35ドル)の実質価値を目減りさせないようにするものである。

上院と下院の法案は、内容に違いがあるため、今後、それぞれの法案は両院協議会において調整される予定である。大統領も最低賃金の引き上げと中小企業への減税を併せて行うことに反対しており、両院協議会で調整された法案に署名する見込みは少ないと見られる。

2000年2月2日に可決された上院法案は、現行の最低賃金の時間当たり5.15ドルを6.15ドルとする。最低賃金の引き上げは3年間で段階的に実施する。また、事業所税を今後10年間で750ドル減税する。

2000年3月9日に可決された下院法案は、5.15ドルから6.15ドルへの最低賃金引き上げを2年間で段階的に実施する。今後10年間で1220億ドルにのぼる減税の内容は、最低賃金引き上げの影響を受けると考えられる中小企業を対象にした機器の損金対象総額の引き上げや401kプラン等の確定拠出型年金の無税拠出限度額の引き上げ、さらに富裕層を対象にした贈与税・不動産税率の引き下げなどである。下院では、共和党の保守的な議員から成るグループが、各州に連邦最低賃金を受け入れない権利を与えることを要求し、下院法案を阻止しそうな勢いであったが、共和党ハスタート下院議長がこれを説得し、下院案を成立させた。共和党の減税案で最も大きな恩恵を受けるのは富裕層で、民主党議員からは、減税案が高所得者優遇であるとの批判が出ている。

大統領は、下院法案可決後、共和党が提案した減税案について、社会保障年金や、主に高齢者を対象とする医療保障制度メディケアの将来を危うくする、富裕層に偏った減税であると述べ、労働者の利益にならない減税を条件とした最低賃金引き上げには応じられないと語っている。現在、全国で約400万人の労働者が最低賃金を支払われており、大統領は一般教書演説などで、最低賃金引き上げを繰り返し提唱している。

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