スペインのマクロ経済指標

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

スペインの経済成長に対して寄せられている表向きの信頼度は、実は過度なものである。総選挙を間近に控えた昨今、政府閣僚の見せるオプティミズムはとどまるところを知らないが、マクロ経済指標を見るかぎり疑問を抱かざるをえない。スペイン経済の成長は欧州連合平均をわずかに上回るにすぎず、また欧州の「二軍」諸国のどれよりも下回っている点が目を引く。これは何を意味するかといえば、スペインは欧州連合レベルに近づきつつあるというものの、所得水準が同程度の他の国々と比べると、そのスピードははるかに遅いということになる。例えばアイルランドの実質経済成長率はスペインのほとんど3倍であり、失業率も1993年の3分の1の6%まで減り、欧州平均をかなり下回っている。一方、非自営労働者1人当たりの経済成長で見ると、スペインは欧州連合の最後尾に位置する。

現在の経済成長は、公共部門の歳出の成長がより小さいという点を除けば、10年前の経済成長期と非常によく似たマクロ経済上の特徴を示している。それが1992年の深刻な経済危機で終わったことはよく知られている。その後社会党政権の度重なる通貨切り下げにより輸出が拡大したが、1998年には景気回復に伴う需要の伸びで、再び輸入が急成長している。GDP に占める輸入の割合は過去3年で3倍になっており、国民所得の成長に2~3%影響している。ところが欧州通貨統合によって、政府はもはや通貨切り下げ策に訴えることもできない。そんな状況の中で唯一可能な手段はインフレだけであり、実際最近数カ月はインフレ傾向が顕著になってきている。1999年末のスペインのインフレ率は2.8%で、1998年のインフレ率および欧州平均の倍である。原油価格の高騰(スペインでは15%程度)などの国際的要因は他の欧州諸国にも影響しているはずであるが、懸念されるのはスペインに限ってインフレが始まる兆候が全く見られないことである。輸出は1992年~1995年に非常に良い成果をあげたが、このままではインフレによる悪影響が出ることも考えられる。

工業部門の成長は1999年を通じて大きくスピードダウンし、農業もかなりのマイナス成長である。したがって経済成長への貢献度から見ると、サービス部門、そしてこれにも増して建設部門の重要度がさらに大きくなっている。建設部門の成長率は年間10%を超えている。しかし金融機関では、不動産市場の大幅な成長維持はこれ以上無理と見ており、不良債権の増大への恐れのため1999年後半から抵当融資を減らしている。大体これほどの規模の不動産ブームは、地下経済が総生産の4分の1近くに達するスペインのような国で、しかもユーロの本格的導入前にブラックマネーの浄化をはかろうとする動きが激しくなったという特殊な状況下でしか説明できないものなのである。

スペイン経済に関するいかなる予測も、1999年が好況期であることを示している。過去数年にわたって並外れた成長を見せた投資は弱まり、貿易赤字も長期的な経済成長維持が困難なレベルに達することが予想される。一方各家庭の消費支出は1997年よりスピードダウンしているが、この傾向は減税政策の効果が薄れるにつれ強まるであろう。雇用創出も鈍ると考えられる。4分の1の家庭が「月末は苦しい」か「かなり苦しい」と答えており、貯蓄がきわめてわずかな家庭も全体の3分の1である。

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